YOMIMONO 読み物 小説、エッセイ、著者インタビュー、等々。新潮文庫nexが贈る特別コンテンツ。
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【著者メッセージ】
あんな奴、消えてしまえ――そう思ったことはありませんか?
「1年D組」なら、きっとあなたの仲間が見つかるはずです。
1年D組の担任・羽田勝が刺殺体で発見された。人気教師だった彼は、クラスを支配する女王・麻耶とその取り巻き達に媚び、立場の弱い生徒をイジる素顔を隠し持っていた。彼を恨む生徒たちは多数。
婚約者である教師の優香も、羽田に結婚式延期を切り出されており、優香に横恋慕する化学教師・鈴木もまた彼に嫉妬心を燃やしていた事が明らかになる。
容疑者多数の状況で警察が捜査が進む中、保健室を介して、イジられ役の生徒たちへ謎の手紙が届き始める。次々に明かされていく上位メンバーの裏切り、秘密の過去。そして、イジられ役から復讐の悪魔が誕生し――。
D組に復讐と裏切りのゲームが広がる中、第2、第3の死者が発生。
全てを計画した“神”の正体とは!?

十八世紀、地方の町で暮らす女の子。十六歳。ひょんなことから無人のタイムマシンを山中で見つけた。父は岡っ引き(詳しくは『トリモノート』を)。
舟彦(ふなひこ)
お星の幼なじみ。同い歳。親は文具屋。学者先生の家で働いていたことがある。感化されて、一人称は「ぼく」。タイムマシンの中にあるいろんなアイテムを研究中。
【第四問】
次に登場するXXXXXXXXが何か、当ててください。二十一世紀のみなさんがよく知っている道具です。お星たちは十八世紀の人間だから、それが何かわかっていないようですが。
舟彦、店番中。
店には舟彦とお星が二人きり。二人は机をはさんで座っていた。
いま、お星は呆れていた。舟彦が得意そうにXXXXXXXXを頭にかぶっていたからだ。お星はあらためてはっきりと指摘した。
「うち、それはそうやって使うんやないと思う」
舟彦は動じない。
「おいおい、この形だぞ。おそらくこうやって使うものだと思うがね。見映えがするだろう?」
XXXXXXXXはこれまた、タイムマシンから舟彦が持ってきたアイテム。その形状をヒントにして、舟彦はXXXXXXXXが海外で定着しているファッションだと考えた。で、自らそれを頭にかぶってみたのであった。
「めっさ見映えせんよ」
「見慣れればそうでもないはずだ。それに、少々見映えせずとも、きっと雨をしのいでくれる。実用的な代物さ」
「ほうか? それ、いまにも落っこちそうやけど?」
「いや、そう見えるかもしれないが、意外と……」
ぽとりっ。
舟彦が身体を揺らした拍子に、XXXXXXXXは机の上に落っこちた。
顔を赤らめて言葉を足す舟彦。
「……本来は紐をつけて、顎のところで結ぶのであろう。そうすればこういうふうに落っこちることもあるまい。どうだ、お星も使ってみるか?」
「いやじゃ。けたくそわるいわ」
お星たちがそんな会話をしていると、
「あのゥ、ごめんください」
突然、店先から声が聞こえた。
お星が振りかえると、店先には一人の婦人がいた。客が来たのである。
お星はとっさに机の上のXXXXXXXXを気にした。この町で見慣れないアイテムについて、なんといわれるかわかったものではない。ややこしいことにならないよう、一応隠しておこうと考えた。
けれども、お星の手が動く前に、客はさっさと店の奥にやってきた。XXXXXXXXが落ちている机を目の前にして、
「墨を買いたいのですが……」
などといって、何事もなく買いものをはじめた。机の向こうで、ぎこちなく客に応じる舟彦。彼もXXXXXXXXのことが気がかりのようだ。
だが、見慣れないはずのXXXXXXXXがずっと机の上にあったにもかかわらず、客はそれを気にしていない様子。やがて買い物を終えて、XXXXXXXXには一言も触れず帰っていった。
お星はつぶやいた。
「ほらほうか。なんちゃいわれんで当たり前やな」
さて、XXXXXXXXとは何か?
クリアファイルを広げると、頭巾・フードあるいは兜のような形になる。この形をヒントにして、舟彦はクリアファイルを頭にかぶるものと思いこんだのであった(ちなみに数日後舟彦はクリアファイルが文房具だと気づくことになる。そのときに彼が味わった恥ずかしさはご想像に任せる)。 客がクリアファイルに気づかなかった理由だが、落ちついて考えるとお星にもよくわかった。簡単な話で、クリアファイルが透明だから、客に視認されなかっただけだ。
「冷や冷やしたね。こんなものが見つかったところでべつに騒ぎにはならないと思うが」
と、舟彦。
「うちも冷や冷やしたわ。けどそれ、色がないけん、よほど気をつけんと見えん。冷や冷やせんでよかったんじゃ」
「水のように透け、水のように柔らかいから〈水兜〉と名付けよう」
「ほんまそれ頭にかぶるもんか?」
お星はその点にこだわった。が、舟彦はお星の言葉を気にせず、思いだしたようにいう。
「よほど気をつけんと見えん……か。もしいまのが渦之丞さんだったとしても、やはり見つからなかっただろうか?」
渦之丞というのは、お星の父とはべつの、もう一人の岡っ引き。かつてはイカサマ賭博で暮らしていたが、いまではお上から厚く信頼されている男だ。
「あー、それはどっかなー」
目ざとい渦之丞なら見つけていたかもしれない。
舟彦は岡っ引きとしての渦之丞について、いろいろと思いを持っていると見える。
「いまから〈水兜〉をつけて渦之丞さんに会いにいき、試してみようか?」
にやにやと冗談まじりに舟彦がそういい、クリアファイルを広げて頭にかぶった。とても不安定。「いまにも落っこちそう」とお星がいうのも無理はない。何より、ださい。ださすぎる。ださださである。
「いや、〈水兜〉はほとんど見えんけど、あんたの髪がおかしなっとるんはよう見える。頭にかぶっとったら、うちでもすぐ気づくわ」
二人は腹を抱えて笑ったとさ。
さて……ここでお星は、笑いながらぼんやりと考えた。渦之丞は気づくかもしれない。しかし同じ岡っ引きでも、自分の父なら抜けていて、たぶん気づかないだろう、と。でもお星は、だからといって父をとりたてて悪くは思わなかった。目ざといかどうか、そんなことは岡っ引きとしていちばん大切なことではないと思うからだ。異国の雑貨を使いこなすのも、いちばん大切なこととはまたちがう気もする。
といっても、何がいちばん大切なことかと問われても困ってしまうが。
岡っ引きにとっては、何がいちばん大切なんだろう。お星は思いを馳せた。今日だけではない。お星はそんなふうなことをしばしば考える。(終)
十八世紀、地方の町で暮らす女の子。十六歳。ひょんなことから無人のタイムマシンを山中で見つけた。父は岡っ引き(詳しくは『トリモノート』を)。
舟彦(ふなひこ)
お星の幼なじみ。同い歳。親は文具屋。学者先生の家で働いていたことがある。感化されて、一人称は「ぼく」。タイムマシンの中にあるいろんなアイテムを研究中。
【第三問】
次に登場するXXXXXXが何か、当ててください。二十一世紀のみなさんがよく知っている道具です。お星たちは十八世紀の人間だから、それが何かわかっていないようですが。
一人で店番している舟彦を訪ねたお星。舟彦の手にあるXXXXXXを一目見て、そう尋ねた。舟彦はXXXXXXをお星にさしだして、
「そうだ。なんのための道具か、よく考えたいと思って持ってきた」
お星はXXXXXXを両手で握り、うーんと唸って考えて、
「わかった。万華鏡やろ?」
「だが、ただの万華鏡にしては、底がない」
「底がない? そりゃまた、けったいな万華鏡やな。けど、〈光る家〉にあるもんはけったいなもんばっかりじゃ。底がなくてもなんとかなるんちゃうか?」
といって早速、XXXXXXの中を片目で覗きこむ。
「……なんちゃならんな。こりゃつまらん」
「ぼくもはじめはそうしたんだけどね。でも、よく考えて、いまではべつのことを考えている」
お星は顔をあげた。
「どゆこと?」
舟彦はお星から受け取ったXXXXXXを膝元に置いた。つづいて、骨董品を見る鑑定士のようにあちこちの角度から鑑賞しはじめた。
「こうやって見るのが正しいのではないか、と」
「へえ!」
「はじめはこれでもつまらんと思ったが、見慣れてくると万華鏡よりも風情があってよい。そう考えて、風情を味わっていたところだったのだよ」
さて、XXXXXXとは何か?
鏡のようだという第一印象のため、二人は万華鏡を連想したのであった。アルミホイルを芯ごと立てて、それがちかちかと光を反射するさまに風情を感じた舟彦は、アルミホイルを〈逆万華鏡〉と名付けたとさ。(終)
十八世紀、地方の町で暮らす女の子。十六歳。ひょんなことから無人のタイムマシンを山中で見つけた。父は岡っ引き(詳しくは『トリモノート』を)。
舟彦(ふなひこ)
お星の幼なじみ。同い歳。親は文具屋。学者先生の家で働いていたことがある。感化されて、一人称は「ぼく」。タイムマシンの中にあるいろんなアイテムを研究中。
【第二問】
次に登場するXXXが何か、当ててください。二十一世紀のみなさんがよく知っている道具です。お星たちは十八世紀の人間だから、それが何かわかっていないようですが。
「舟彦」
と、お星が声をかけると、舟彦は顔をあげて、
「何がいるの?」
「買いに来たんとちゃう。暇なら、うち来まい。もらいもんのくだもんが余っとるんじゃ。食ってけ」
「いいの?」
「お父にいわれて呼びにきたんじゃ。けど……、お父は舟彦と将棋したがっとるけん、うち来たら将棋の相手することになるぞ。いやなら、舟彦忙しそうやったってゆっとく」
「いまは何もすることがないから、大丈夫。ありがたくご馳走になるよ」
といって、舟彦はいったん店の奥にひっこむ。出てきたとき、舟彦はXXXを手にしていた。XXXを見て、お星は目を剥いた。
「げえ。なんじゃ、それは」
「〈光る家〉にあったものさ。果物を食べるときに使う道具だ」
「なんやへんな形やけど、そんなんでものを食うん? ほんまか?」
「本当だ。昔、先生の家で、海の向こうの人たちが果物を食べるときに使う道具を教えてもらったことがある。まさしくこれと同じものだった。だからいわば先生の折り紙つきさ」
「ほうか。ほんならええけど……、うちは使わんけんな」
「けっこうけっこう。だがいつか、時代遅れといわれるかもしれないぜ。ぼくはこれを〈異国箸〉と呼んでいる。とても使い勝手がよい。ゆくゆくはぼくたちの暮らしにも取りいれられるのではないかと考えているのだ」
こうしてお星の家にお呼ばれした舟彦。XXX、もとい〈異国箸〉で柿をうまうまと食べたのであった。
そして後日、お星と舟彦が〈光る家〉で二人きりのとき……。
お星は〈光る家〉の棚を掃除していたが、棚の隅っこから出てきたものを見て、
「なあ、舟彦」
「どうした?」
「ようわからんが……、こいつは〈異国箸〉のための箸置きか? よう似た形しとるな」
さて、 XXX とは何か?
舟彦はむろん、スパナとフォークを混同している。お星がタイムマシンの中で見つけたのは六角ナットであった。
ちなみに、まずは箸置きだと思ったお星だが、考えなおして、「ここで〈異国箸〉を作ったんやろか。これ、穴をくりぬいた余りちゃう?」
といった。いっぽう舟彦は六角ナットが工具であると直感的に理解した。スパナの用途を自分が勘違いしていたと知り、耳まで顔を真っ赤にしたそうな。(終)
第三問は4月12日(火)公開予定! ■第一問はこちら
十八世紀、地方の町で暮らす女の子。十六歳。ひょんなことから無人のタイムマシンを山中で見つけた。父は岡っ引き(詳しくは『トリモノート』を)。
舟彦(ふなひこ)
お星の幼なじみ。同い歳。親は文具屋。学者先生の家で働いていたことがある。感化されて、一人称は「ぼく」。タイムマシンの中にあるいろんなアイテムを研究中。
二人はタイムマシンを〈光る家〉と呼ぶ。
それが時間を移動できる乗り物だとはまだ気づいていない。
タイムマシンの中にあるアイテムの数々にびっくりしていて、
それらの用途について考えている二人であった。
おや。彼らは今日も、アイテムの一つを話題にしているようだ。
何について話しているのだろう?
【第一問】
次に登場するXXXXXXが何か、当ててください。
二十一世紀のみなさんがよく知っている道具です。お星たちは十八世紀の人間だから、それが何かわかっていないようですが。
お星は舟彦の店を訪ねた。舟彦は一人で暇そうに店番していた。舟彦の手元にはXXXXXXがあった。 「お、舟彦。変わったやじろべえを持っとるな。〈光る家〉にあったんか?」
XXXXXXはお星にとって、見慣れない造形をしていた。舟彦はXXXXXXを手でぎゅっと握って前につきだし、お星に見せつけた。
「そうだ。よくできているだろう?」
「せやな。ほんじゃけど、こいつ、頭がないぞ。もげたんか?」
「はじめから頭がないのだ」
「ええっ? そんなん気味悪い」
はっはっは、と舟彦は大口開いて笑った。
「気味悪いときたか。お星は風情のわからぬ娘だな。どんなに人形を人に近づけても、人形と人はちがう。ならば、いっそ頭を取ってしまい、大胆にちがいをつけてもいいではないか。それが風情というものだ」
「ほう……、そんなものか」
お星はすこし納得した。
舟彦は強く頷いた。
「そんなものだ。頭のないことが、このやじろべえの風情であり、ぼくたちはそいつを楽しむべきなのだ」
「風情ねェ。あいかわらず難しげな言葉を使うなあ、あんたは」
舟彦はXXXXXXを右手のひとさし指の上に乗せた。手を動かすと、XXXXXXはぶらぶらと振れた。たしかに、やじろべえっぽい。
だが、しばらく見入ったのち、お星はあっと声をあげた。
「こいつ、頭ないくせに尾っぽがあるんか!」
「これが本当の、頭隠して尻隠さず」
といって舟彦がくすりと笑った。
これもまた風情と考えているようだ。
さて、XXXXXXとは何か?
尾っぽとはコードのこと。舟彦がヘッドフォンを握っているときには手の中に隠れていた。ヘッドフォンがひとさし指の上で揺らされているとき、コードははじめ丸まった状態で、ヘッドフォンの耳を当てる部分に乗っかっていた。しかしそのうち下に垂れさがった。お星はこれを見てあっと声をあげたのである。
ちなみに後日、舟彦はタイムマシンの中でヘッドフォンの説明書を発見した。海外の文字だったために読めなかったが、イラストを見て、これがやじろべえでないことにすぐに気づいた。今度は自信まんまんに、
「こうやって耳につけるものだった。はっはっは、耳が暖かくてよいぞ!」
といった。そしたらお星はこう指摘したとさ。
「やはり尾っぽがいらん。邪魔そうじゃ」(終)
第二問は4月8日(金)公開予定!