YOMIMONO 読み物 小説、エッセイ、著者インタビュー、等々。新潮文庫nexが贈る特別コンテンツ。
2016年4月 8日 10:00
■登場人物紹介
お星(おほし)十八世紀、地方の町で暮らす女の子。十六歳。ひょんなことから無人のタイムマシンを山中で見つけた。父は岡っ引き(詳しくは『トリモノート』を)。
舟彦(ふなひこ)
お星の幼なじみ。同い歳。親は文具屋。学者先生の家で働いていたことがある。感化されて、一人称は「ぼく」。タイムマシンの中にあるいろんなアイテムを研究中。
【第二問】
次に登場するXXXが何か、当ててください。二十一世紀のみなさんがよく知っている道具です。お星たちは十八世紀の人間だから、それが何かわかっていないようですが。
十八世紀のある日。
お星は、舟彦の家を訪ねた。舟彦は店番をしながら、暇そうに本を読んでいた。
「舟彦」
と、お星が声をかけると、舟彦は顔をあげて、
「何がいるの?」
「買いに来たんとちゃう。暇なら、うち来まい。もらいもんのくだもんが余っとるんじゃ。食ってけ」
「いいの?」
「お父にいわれて呼びにきたんじゃ。けど……、お父は舟彦と将棋したがっとるけん、うち来たら将棋の相手することになるぞ。いやなら、舟彦忙しそうやったってゆっとく」
「いまは何もすることがないから、大丈夫。ありがたくご馳走になるよ」
といって、舟彦はいったん店の奥にひっこむ。出てきたとき、舟彦はXXXを手にしていた。XXXを見て、お星は目を剥いた。
「げえ。なんじゃ、それは」
「〈光る家〉にあったものさ。果物を食べるときに使う道具だ」
「なんやへんな形やけど、そんなんでものを食うん? ほんまか?」
「本当だ。昔、先生の家で、海の向こうの人たちが果物を食べるときに使う道具を教えてもらったことがある。まさしくこれと同じものだった。だからいわば先生の折り紙つきさ」
「ほうか。ほんならええけど……、うちは使わんけんな」
「けっこうけっこう。だがいつか、時代遅れといわれるかもしれないぜ。ぼくはこれを〈異国箸〉と呼んでいる。とても使い勝手がよい。ゆくゆくはぼくたちの暮らしにも取りいれられるのではないかと考えているのだ」
こうしてお星の家にお呼ばれした舟彦。XXX、もとい〈異国箸〉で柿をうまうまと食べたのであった。
そして後日、お星と舟彦が〈光る家〉で二人きりのとき……。
お星は〈光る家〉の棚を掃除していたが、棚の隅っこから出てきたものを見て、
「なあ、舟彦」
「どうした?」
「ようわからんが……、こいつは〈異国箸〉のための箸置きか? よう似た形しとるな」
「舟彦」
と、お星が声をかけると、舟彦は顔をあげて、
「何がいるの?」
「買いに来たんとちゃう。暇なら、うち来まい。もらいもんのくだもんが余っとるんじゃ。食ってけ」
「いいの?」
「お父にいわれて呼びにきたんじゃ。けど……、お父は舟彦と将棋したがっとるけん、うち来たら将棋の相手することになるぞ。いやなら、舟彦忙しそうやったってゆっとく」
「いまは何もすることがないから、大丈夫。ありがたくご馳走になるよ」
といって、舟彦はいったん店の奥にひっこむ。出てきたとき、舟彦はXXXを手にしていた。XXXを見て、お星は目を剥いた。
「げえ。なんじゃ、それは」
「〈光る家〉にあったものさ。果物を食べるときに使う道具だ」
「なんやへんな形やけど、そんなんでものを食うん? ほんまか?」
「本当だ。昔、先生の家で、海の向こうの人たちが果物を食べるときに使う道具を教えてもらったことがある。まさしくこれと同じものだった。だからいわば先生の折り紙つきさ」
「ほうか。ほんならええけど……、うちは使わんけんな」
「けっこうけっこう。だがいつか、時代遅れといわれるかもしれないぜ。ぼくはこれを〈異国箸〉と呼んでいる。とても使い勝手がよい。ゆくゆくはぼくたちの暮らしにも取りいれられるのではないかと考えているのだ」
こうしてお星の家にお呼ばれした舟彦。XXX、もとい〈異国箸〉で柿をうまうまと食べたのであった。
そして後日、お星と舟彦が〈光る家〉で二人きりのとき……。
お星は〈光る家〉の棚を掃除していたが、棚の隅っこから出てきたものを見て、
「なあ、舟彦」
「どうした?」
「ようわからんが……、こいつは〈異国箸〉のための箸置きか? よう似た形しとるな」
さて、 XXX とは何か?
【答え】 スパナ
舟彦はむろん、スパナとフォークを混同している。お星がタイムマシンの中で見つけたのは六角ナットであった。
ちなみに、まずは箸置きだと思ったお星だが、考えなおして、「ここで〈異国箸〉を作ったんやろか。これ、穴をくりぬいた余りちゃう?」
といった。いっぽう舟彦は六角ナットが工具であると直感的に理解した。スパナの用途を自分が勘違いしていたと知り、耳まで顔を真っ赤にしたそうな。(終)
舟彦はむろん、スパナとフォークを混同している。お星がタイムマシンの中で見つけたのは六角ナットであった。
ちなみに、まずは箸置きだと思ったお星だが、考えなおして、「ここで〈異国箸〉を作ったんやろか。これ、穴をくりぬいた余りちゃう?」
といった。いっぽう舟彦は六角ナットが工具であると直感的に理解した。スパナの用途を自分が勘違いしていたと知り、耳まで顔を真っ赤にしたそうな。(終)
第三問は4月12日(火)公開予定! ■第一問はこちら