新潮文庫 nex

YOMIMONO 読み物 小説、エッセイ、著者インタビュー、等々。新潮文庫nexが贈る特別コンテンツ。

■登場人物紹介
お星(おほし)
十八世紀、地方の町で暮らす女の子。十六歳。ひょんなことから無人のタイムマシンを山中で見つけた。父は岡っ引き(詳しくは『トリモノート』を)。

舟彦(ふなひこ)
お星の幼なじみ。同い歳。親は文具屋。学者先生の家で働いていたことがある。感化されて、一人称は「ぼく」。タイムマシンの中にあるいろんなアイテムを研究中。


 二人はタイムマシンを〈光る家〉と呼ぶ。
 それが時間を移動できる乗り物だとはまだ気づいていない。

 タイムマシンの中にあるアイテムの数々にびっくりしていて、
 それらの用途について考えている二人であった。
 おや。彼らは今日も、アイテムの一つを話題にしているようだ。
 何について話しているのだろう?

【第一問】
次に登場するXXXXXXが何か、当ててください。
二十一世紀のみなさんがよく知っている道具です。お星たちは十八世紀の人間だから、それが何かわかっていないようですが。

 十八世紀のある日。
 お星は舟彦の店を訪ねた。舟彦は一人で暇そうに店番していた。舟彦の手元にはXXXXXXがあった。 「お、舟彦。変わったやじろべえを持っとるな。〈光る家〉にあったんか?」
XXXXXXはお星にとって、見慣れない造形をしていた。舟彦はXXXXXXを手でぎゅっと握って前につきだし、お星に見せつけた。
「そうだ。よくできているだろう?」
「せやな。ほんじゃけど、こいつ、頭がないぞ。もげたんか?」
「はじめから頭がないのだ」
「ええっ? そんなん気味悪い」
 はっはっは、と舟彦は大口開いて笑った。
「気味悪いときたか。お星は風情のわからぬ娘だな。どんなに人形を人に近づけても、人形と人はちがう。ならば、いっそ頭を取ってしまい、大胆にちがいをつけてもいいではないか。それが風情というものだ」
「ほう……、そんなものか」
 お星はすこし納得した。
 舟彦は強く頷いた。
「そんなものだ。頭のないことが、このやじろべえの風情であり、ぼくたちはそいつを楽しむべきなのだ」
「風情ねェ。あいかわらず難しげな言葉を使うなあ、あんたは」

 舟彦はXXXXXXを右手のひとさし指の上に乗せた。手を動かすと、XXXXXXはぶらぶらと振れた。たしかに、やじろべえっぽい。
 だが、しばらく見入ったのち、お星はあっと声をあげた。
「こいつ、頭ないくせに尾っぽがあるんか!」

「これが本当の、頭隠して尻隠さず」
 といって舟彦がくすりと笑った。
 これもまた風情と考えているようだ。

 さて、XXXXXXとは何か?


【答え】 ヘッドフォン
 尾っぽとはコードのこと。舟彦がヘッドフォンを握っているときには手の中に隠れていた。ヘッドフォンがひとさし指の上で揺らされているとき、コードははじめ丸まった状態で、ヘッドフォンの耳を当てる部分に乗っかっていた。しかしそのうち下に垂れさがった。お星はこれを見てあっと声をあげたのである。

 ちなみに後日、舟彦はタイムマシンの中でヘッドフォンの説明書を発見した。海外の文字だったために読めなかったが、イラストを見て、これがやじろべえでないことにすぐに気づいた。今度は自信まんまんに、
「こうやって耳につけるものだった。はっはっは、耳が暖かくてよいぞ!」
 といった。そしたらお星はこう指摘したとさ。
「やはり尾っぽがいらん。邪魔そうじゃ」(終)

第二問は4月8日(金)公開予定!