YOMIMONO 読み物 小説、エッセイ、著者インタビュー、等々。新潮文庫nexが贈る特別コンテンツ。
新潮文庫nexの公式noteを開設しました。新刊やフェアに関する最新情報をはじめ、編集部員、営業部員、宣伝部員からの生の声など、公式サイトでは伝えきれない情報をお届けしていきたいと思います。ぜひフォローしてチェックしてください。
公式Twitterもあります。

河野裕『いなくなれ、群青』の実写映画化が決定しました。
出演は横浜流星、飯豊まりえ。
主人公・七草を演じるのは、ドラマ「初めて恋をした日に読む話」や「チア男子!!」の横浜流星。
ヒロインの真辺由宇に扮するのは、ドラマ「花のち晴れ〜花男 Next Season〜」や「暗黒女子」の飯豊まりえ。
小説から実写へ。どのような作品になるのか、続報にご期待ください。

階段島シリーズが、原作者・河野裕による新規書き下ろしシナリオで、漫画化されます。 「いなくなれ、群青 Fragile Light of Pistol Star」(作画:兎月あい)、月刊「Gファンタジー」5月号(スクウェア・エニックス刊、4/18発売)よ り連載開始です。

「人生最期の時間を十九世紀英国式に暮らしたい」と願う奥様の夢を本気で叶える物語、『オークブリッジ邸の笑わない貴婦人』(太田紫織著、新潮文庫nex)の刊行を記念し、2015年9月に企画された「本格ヴィクトリア朝ドレスプレゼント」。
制作費50万円のこの超豪華企画に、約600件ものご応募をいただきました。
そして厳正なる抽選の結果、ご当選されたのは埼玉県在住の園部摩耶さん(30)。
杉野服飾大学、株式会社エブリスタのご協力のもと、約1年をかけて、園部さんの夢のドレス作りを進めました。
2016年2月、園部さんと共に杉野服飾大学で打ち合わせをスタート。
19世紀後半の英国ヴィクトリア朝時代らしいデザインや色の相談、そして採寸へ。
物語で「奥様」も好む当時のドレスは、首元や袖、裾まわり、そしてスカートの後ろのボリュームを盛りすぎないのがポイントです。
ドレスのカラーは当初、グリーン系も考えましたが、エレガントな薔薇色のドレスに決定! また、一枚のドレスを仕上げるための布の量は大変多く、ずっしりとしたその重さに驚くほどでした。



その後3月、5月、7月、10月と、園部さん共々、制作チームの先生方と綿密な打ち合わせと調整を重ねました。
この日は白のシーチング生地で仮縫いされたドレスを着用しています。裾のドレープの深さや位置を少し変えるだけで、ドレスの表情ががらりと変わるのに驚きました。
実際に使用する布をあてながら、デザインを細かく調整していきました。

そして年末にかけて制作チームの皆様がラストスパート。心を込めて縫い上げてくださり、年を越えた今年1月、夢のドレスがついに完成しました!
園部さんこだわりのボタンが印象的なデザインで、袖や首元に上品にあしらわれたレースが美しいです。
また、小柄な園部さんのために先生方が工夫をされたのは、スカートにかけて縦のラインに目が行くデザイン。柄の入った生地と無地の生地とを組み合わせが、すっきりと見せました。
先生方は「せっかくの特別なドレスです。飾られるだけではもったいないので、着ていただきやすい物にしました」と、上半身とスカート部分を別々に着られるドレスに。
ドレスが崩れない保管方法もレクチャーしたうえで、園部さんに無事贈呈されました。
最後に、制作チームの先生方と記念撮影です。




実は園部さん、ご結婚式を控えられていました。後日、結婚式用に旦那様と撮ったお写真や、式場で飾ってくださった様子のお写真をお送りくださいました。とても素敵です!



最後に、園部さんそして著者の太田さんよりご感想をいただきました。
◆園部摩耶さんより
「体型のここが気になる」、「こんな装飾が欲しい」など、ヴィクトリア朝の婦人方もきっとそんなことを仕立て屋さんと話しながらドレスを作ったのではないでしょうか。
打ち合わせに行く日々は、束の間19世紀の貴婦人になれる、私にとってのオークブリッジ邸とも言える愛おしい時間でした。
大好きが詰まったドレスは一生の宝物です。この度は本当にありがとうございました!
◆太田紫織さんより
物語が現実になったようで、私も感動してしまいました。家事もそうですが、やっぱり衣服も人や人生を作るというか……ドレス一枚で変わる人生があると思うし、実際にあったと思うんです。
園部さんの幸せを担うものであって欲しいと思いますし、やっぱりドレスのボリュームや迫力というか、このドレスなら、人生を左右しても当然だな、と確信させるようなパワーを感じました。
何時間でも眺めていられそうです!
園部さん、そして杉野服飾大学の皆さん、素敵な機会をありがとうございました!
長期にわたる企画にご協力いただいた皆様、この度はありがとうございました。
『オークブリッジ邸の笑わない貴婦人』は2017年9月、完結となる第3巻を刊行。奥様の最後の夢である「舞踏会」を叶えるため、お屋敷の歯車達が駆け回ります。
夢と人生と家族について考える感動の物語、是非皆様お楽しみください。
竹宮ゆゆこ氏について語る前に、「新潮文庫nex」の話をしておきたい。今から数年前、ライトノベルと一般小説の中間のような小説が「ライト文芸」「キャラクター小説」などと呼ばれるようになり、二十代から三十代の読者を狙って多くの出版社が新レーベルを立ち上げた。「新潮文庫nex」もその流れに乗って創刊されたレーベルのひとつである。ライトノベルでは既に人気作家だった竹宮氏の『知らない映画のサントラを聴く』も、創刊時に刊行されている。この種の文庫が創刊されると、出版社は「うちの既存の棚は減らさず、他の出版社のキャラクター小説が並んでいるコーナーに、場所を確保してほしい」とアピールをしてくる。新しい読者を獲得できるところに、棚を確保したいのは当然のことだと思うが「新潮文庫nex」だけはなぜか違った。
「既存の新潮文庫の中に混ぜてください」と言うのだ。「クラシックな文庫と並べると違和感あると思いますよ」と言ってみたが、「それでいい」と言う。こういう小説を買いにくる読者に、従来の文庫も手にしてもらうための作戦なのだろうと当時は思っていたのだが、実は、これには別の意味もあったのではないだろうか。固定読者がついている「キャラクター小説」であるが、そういうジャンルには関心を持たない読者も多い。そういう読者に、竹宮ゆゆこという稀有な才能を持つ作家の存在をじわじわと知らしめるための作戦だったのではないか。新作『おまえのすべてが燃え上がる』を読み終わった今、私はそう確信している。
安楽な愛人生活を突然に強制終了させられた主人公の信濃。キックボクシングジム受付のアルバイトを見つけたものの、生活を支えるほどの収入はない。励ましてくれる友人も、状況を変えようという強い意思もない。生活の糧に、愛人生活で手に入れたブランドバッグを売っているが、それが尽きたら終了、という破綻寸前の生活を送る信濃の前に、六歳年下の「弟」と二度と会いたくなかった元カレが現れ、単調だった生活が騒がしく変化していく。
殺意をむき出しにした本妻に追いかけられている最中にも、子供の頃に部屋で爆発した西瓜のことを執拗に思い出す現実逃避ぶり。ブランドバッグと脳内で会話する妄想癖。無神経な元カレを思い続けてしまう不器用な恋心。ダメ女を主人公にしたラブコメ風に、切なくもユーモラスに物語が展開している……と思って気を許すと、次第に主人公の抱えた孤独と闇がくっきりと際立ってきて、気がつくと読んでいる側も追いこまれ、自分の中にある闇を見つめさせられることになる。
この小説は確かに恋愛小説でありキャラクター小説なのだけれど、そういうふうにジャンルで整理するのはなんだか違う気がする。生きる手段が見つけられず、生きていていい理由も思いつかず、愛を求めても得られず、それでも「誰にも奪われない、本当のおしろがほしい」と強く願う一人の女性の長く苦しい戦いの物語である。そして戦いの後、竹宮氏は読者を想像しなかった場所に連れて行く。まるで爆風に吹き飛ばされたように、意外な地点までたどり着いてしまう。
竹宮氏は、この作品でも過去の作品でも、居場所を持たない女性を描いている。『知らない映画のサントラを聴く』の主人公であるニート女子は家族から家を追い出されるし、『砕け散るところを見せてあげる』のヒロインは、学校でも家庭でも不安にさらされている。どうしようもない生きづらさを抱えた彼女たちは、どうにか自分の人生を生きようともがく。その不器用な姿から見えてくる生命のきらめきのようなものを著者は丁寧に切実に、そして真摯に描く。
今から一年ほど前、『砕け散るところを見せてあげる』が刊行された時に、インタビューでタイトルの意味について聞かれた竹宮氏はこんなことを答えている。
「いろんなキャラクターのいろんな気持ちや、人生について考えていることや、将来の展望といったものが砕け散るところを、(著者である)私が見せてあげる、という意味なんですよ」
こんなふうにタイトルをつける作家って、他にいるんだろうか? これからもその発想に驚かされ、真摯に描かれた女性たちの戦いぶりに心打たれてしまうだろう。竹宮ゆゆこ作品を読まない人はものすごく損をしていると思う。燃え上がる炎の熱さと爆発の威力を、ぜひ体感していただきたい。
(たかとう・さわこ 書店員)
竹宮ゆゆこ『おまえのすべてが燃え上がる』
波 2017年6月号より

詳しくは≫≫『おすすめ文庫王国2017』 | WEB本の雑誌

投票していただくと抽選で最果さんのサイン本が当たります。ぜひご参加ください。
詳しくは≫≫エンタメ小説 | SUGOI JAPAN Award2017
(1)お互いの第一印象をお聞かせください!
ミレディア(以下・ミア):物音だけ聞こえてたときは、「………なにか、いる…」っていう…。でも私、墓掘りが趣味ですし、人見知りの幽霊ならむしろ仲良くなれると思って…。会ったときは、……ひどく悲しい気持ちでした。
道化師:……。……さびしげで、どこかもろくて目が離せない、……あと…やっと見つけたと…(*取材者註:それきり黙る)。
2)ミレディアさんは最初道化師さんを女の子と勘違いされていましたが(あっ道化師さんが取材者を睨んでますね…)、男の子だなあと意識した瞬間はありますか。
ミア:抱っこされて持ち歩かれるのは嫌いらしい、というところ。少しは移動が楽かなと思って…。
子供扱いと感じて嫌がるのかなとも考えましたが、膝枕だとじっとしているので…。?…男の子は難しいです。
(3)道化師さんはミレディアさんの香りに強く惹きつけられていた印象ですが(また道化師さんが取材者を睨んでますね…)、ミレディアさんは何か特別な調香を?
ミア:いえ? 何も。だいたいギィは「香水を俺に移すな、帰れ!!」ってよくきれいな女の人をふってるし、特に戦場なら「居場所がばれんだろ馬鹿ミア!」って首をしめられてるはず。…………でも…(でもアキが前に「花のにおいがするね」って奇妙なことをいっていたわ…)。……。
(4)ミレディアさんが途中、道化師さんの木枷をノコギリでゴリゴリやったり、道化の面を泡だらけにされていましたが、「これならイケたかもな!」と他に挑戦したかった方法はありますか。
ミア:ギィ直伝、渾身の居合抜き。難点は実戦経験ゼロの私だとたぶん中身も死んでしまうところ(*道化師、ミレディアの背後でおののく)。
それか体を小さくする秘薬を開発・投与(そちらの世界のアリスのケーキなどが非常に参考に)。空豆サイズになれば木枷もゆるみ、道化師セットが脱げるのではと…。呪いがとけなくても、手のひらサイズの彼は大変かわいいと思います(*道化師、憤然とする)。その後成長薬を投与…でも間違えれば私より年上になってしまうかもしれないから…(*道化師が興味を持つそぶりをする)。難点は投与方法で…、面で飲み薬はだめ、注射針も通らない服…。やっぱり座薬しか…(*道化師去る)。
(5)最後に、読者の皆さまへのメッセージをお願いします!
ミア:また…いつの日かお目にかかれますように。皆様にも…。
…鎖と木ぐつの…あの子にも…。
道化師:…。この先、ミア…さんと再会する日がきても、…僕が道化師だったとは言わないでほしいと思います。それだけは…。
【作品関連】
(1)『レアリア』2巻刊行からもうすぐ1年。どんな日々を送ってきましたか。
雪乃:いいこと半分苦しいこと半分、人並みだと思います…(笑)。
何も書かない期間を1ヶ月つくって読書に当ててみた時があったのですが、よかったです。しおれた菜っ葉みたいだったのが元気になって。意識して錨をおろす時間、というのをようやく考えるようになりました。
(2)「yom yom」2016年夏号寄稿の『レアリア』特別読切の前に、『彩雲国秘抄 骸骨を乞う』角川文庫版に収録する特別篇の書下ろしがありました。それが今回の執筆にあたって、何か気持ちの面でプラスに働いていると感じる部分はありますか。
雪乃:今回は特に何も意識は…別の話なので(苦笑)。
それに限らず、今まで書いてきて、マイナスに働いたものは何もありません。
山をのぼるように、1つ1つが私のプラスです。なので「はい」ですね。
(3)今回の読切は、ミレディアとアリルの出会いの物語でした。これをテーマに選んだ理由は。
雪乃:テーマ!?(笑)を選んだ理由……。えー…いえ、単に当分書く機会がなさそうだったので…。
(4)書いてみていかがでしたか。
雪乃:それはごらんになった読者の皆様に私が聞いてみたいことです。どうだったでしょう。感想をいただけたら、嬉しく思います。
(5)今後読切をやるなら、書いてみたいのは誰のどんなお話ですか。
雪乃:さて…そのときになってみないと。その時々で「これ」と感じた話にはなると思いますが。どんな話も、書く時機を逸したら、そのままずっと私の中で眠る。とても大事で、書きたかったエピソードでも、時を逃すと永遠に書かないまま終わります。不思議とそういうもので。まさに縁ですね。 ですから今はなんとも。「書いてみたい話」を実際書く機会があるかはわからず、書けなかったとき、本当にさみしくなりますから。
(6)『レアリア』は雪乃さんにとって、どんな物語ですか。
雪乃:私の初期の2作品のうちの1つになります。
初期火山のマグマの残り半分てところです。「ベクトルが前作と反対なだけで同じマグマのもう半分」なので、レアリアも誰も彼も好き勝手に(彩雲国とは逆方向に)走っていて、前作同様整然たる話とは遠い(笑)。それでいいとも思っています。前作と同じく、書きたいものを片っ端から、書きたいように書けたらいい。そう思うのも、そんな風に「彼らのその先こそ見たい、今のぜんぶを書いておきたい」と心底思うのも、これが最後かもしれません。初期の私は、ここで一区切りがつくかもしれませんね。…初期ったって、まあずいぶんたってますけど…。レアリアまでは好きにして、自分と彼らのへんなエネルギーに従って書く気でいます。
(7)最後に、読者の皆さまへのメッセージをお願いします。
雪乃:初めてアリルがミレディアと出会ったときのわずかな期間の物語ですが、本編では当分書くことはないかもしれないと感じたエピソードでもあります。
この短編を知らなくてもよし、知って本編を読むとまた少し違う風に読める…かも? しれません。楽しんでもらえることを祈っています。
【夏☆関連】
(1)夏ですね! この夏の予定や、やってみようと思っていることはありますか。
雪乃:花火を見たいですね! 不思議に毎年花火は(行く気がなくても)必ず一回は見る機会や場所に恵まれるので、今年も。
(2)学生さんは夏休みです。夏休みにはどんな思い出がありますか。
雪乃:まだ世界遺産になる前の平泉に友人と2人で行ったとき。何をとちくるったか私が「全部鈍行で行こう」(←むろんそんな距離じゃない)と言いだし、決行。2人して時刻表を間違えるわ、漠然と2時間の待ち時間ができ(ホームは誰の影もなし)、自然豊かな駅で駅員さんにホームから出してもらいサイクリングしてみたり。早朝出発、平泉についたのは夜の9時すぎで夕食もくいっぱぐれ。当時の平泉はその時間ほぼ真っ暗で、私たち2人くらいしか降車しなかったような。でもローカル線の景色はどこまでもどこまでも美しかった。その友人とはその後も旅行しますが、今も2人で笑えるのはその旅ですね。あほな思いつきを真剣に学生のうちにやると本当に忘れ難いです。
(3)夏休みの読書におすすめの本を教えてください。
雪乃:読みたい本を読むのが一番です。自分で宝物になる本を見つけたときが最高の一瞬ですから。私ははりきって分厚い大判の本や長編シリーズを選んでたような。
あとは家族の「勉強は」「ごはんは」などから邪魔されぬ秘技をなんとか各自編み出してください! 寝坊してだらしないと私は毎日怒られてましたが、夜中から明け方しか一気読みできなかったから黙って耐えていた…。
※このインタビューは『yomyom』2016年夏号への『in a blue MOON ―レアリア―』読切寄稿記念として、2016年7月に行われたものです。

「キャラクター」と「物語」「文学」の融合を掲げた新潮文庫nexは、この2年で書き下ろし作品を中心に約72点の小説を刊行しました。
2周年を記念し、今年も「新潮文庫nex総選挙」開催です!
総選挙上位となった作品は、9月に書店で行われる「新潮文庫nex総選挙フェア」にて、大きく店頭展開されます!
●ランキングは、発行部数に応じた「部数ポイント」とネット投票数の「投票ポイント」の合算で決定します。
●投票は、ツイッターにて受け付けます。
●ハッシュタグ「#nex総選挙」を入れた上で、貴方がいちばん好きな作品名をツイートしてください。
※ツイート例:河野裕『いなくなれ、群青』#nex総選挙
●ツイートには、性別の記入をお願いいたします。
●投票期間は、7月25日(月)21時~8月1日(月)24時です。
●投票は1アカウントにつき、1票のみ可能です。
●投票者のうち、抽選で5名に投票した作品の著者サイン入り色紙をプレゼントします。
●「本を買ってくれた方々」を最重視するため、合算の比重は「部数ポイント>投票ポイント」となります。
●シリーズ作品は、1作品と見做し、ポイントを合算します。
●「投票ポイント」ランキングは選挙速報として8月6日(土)に、「部数ポイント」と「投票ポイント」を合算した選抜ランキングは、8月27日(土)に発表します。
相沢沙呼『スキュラ&カリュブディス―死の口吻―』
青柳碧人『ブタカン!~池谷美咲の演劇部日誌~』
青柳碧人『恋よりブタカン!~池谷美咲の演劇部日誌~』
秋田禎信『ひとつ火の粉の雪の中』
秋田禎信『ハルコナ』
伊与原新『蝶が舞ったら、謎のち晴れ―気象予報士・蝶子の推理―』
榎田ユウリ『ここで死神から残念なお知らせです。』
王城夕紀『青の数学』
小川一水『こちら、郵政省特別配達課(1)』
小川一水『こちら、郵政省特別配達課(2)』
太田紫織『オークブリッジ邸の笑わない貴婦人―新人メイドと秘密の写真―』
太田紫織『オークブリッジ邸の笑わない貴婦人2―後輩メイドと窓下のお嬢様―』
神永学『革命のリベリオン―第I部 いつわりの世界―』
神永学『革命のリベリオン―第II部 叛逆の狼煙―』
喜多喜久『創薬探偵から祝福を』
九頭竜正志『さとり世代探偵のゆるやかな日常』
河野裕『いなくなれ、群青』
河野裕『その白さえ嘘だとしても』
河野裕『汚れた赤を恋と呼ぶんだ』
里見蘭『大神兄弟探偵社』
里見蘭『暗殺者ソラ―大神兄弟探偵社―』
里見蘭『誘拐サーカス―大神兄弟探偵社―』
最果タヒ『空が分裂する』
最果タヒ『渦森今日子は宇宙に期待しない。』
島田荘司『ロシア幽霊軍艦事件―名探偵 御手洗潔―』
島田荘司『御手洗潔と進々堂珈琲』
島田荘司『セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴―名探偵 御手洗潔―』
島田荘司『御手洗潔の追憶』
篠原美季『迷宮庭園―華術師 宮籠彩人の謎解き―』
篠原美季『雪月花の葬送―華術師 宮籠彩人の謎解き―』
篠原美季『花想空間の宴―華術師 宮籠彩人の謎解き―』
神西亜樹『坂東蛍子、日常に飽き飽き』
神西亜樹『坂東蛍子、屋上にて仇敵を待つ』
神西亜樹『坂東蛍子、星空の下で夢を語る』
瀬川コウ『謎好き乙女と奪われた青春』
瀬川コウ『謎好き乙女と壊れた正義』
瀬川コウ『謎好き乙女と偽りの恋心』
竹宮ゆゆこ『知らない映画のサントラを聴く』
竹宮ゆゆこ『砕け散るところを見せてあげる』
谷川流『絶望系』
知念実希人『天久鷹央の推理カルテ』
知念実希人『天久鷹央の推理カルテII―ファントムの病棟―』
知念実希人『天久鷹央の推理カルテIII―密室のパラノイア―』
知念実希人『スフィアの死天使―天久鷹央の事件カルテ―』
知念実希人『天久鷹央の推理カルテIV―悲恋のシンドローム―』
遠田潤子『月桃夜』
七尾与史『バリ3探偵 圏内ちゃん』
七尾与史『バリ3探偵 圏内ちゃん―忌女板小町殺人事件―』
七月隆文『ケーキ王子の名推理(スペシャリテ)』
仁木英之『僕僕先生 零』
仁木英之『王の厨房―僕僕先生 零―』
古野まほろ『池袋カジノ特区 UNOで七億取り返せ同盟 I―プチ・コン編―』
古野まほろ『池袋カジノ特区 UNOで七億取り返せ同盟 II―グラン・コン編―』
堀川アサコ『ゆかし妖し』
堀川アサコ『小さいおじさん』
法条遥『忘却のレーテ』
堀内公太郎『スクールカースト殺人教室』
円居挽『シャーロック・ノート―学園裁判と密室の謎―』
円居挽『シャーロック・ノートII―試験と古典と探偵殺し―』
水生大海『消えない夏に僕らはいる』
水生大海『君と過ごした嘘つきの秋』
三國青葉『かおばな剣士妖夏伝―人の恋路を邪魔する怨霊―』
森川智喜『未来探偵アドのネジれた事件簿―タイムパラドクスイリ―』
森川智喜『トリモノート』
雪乃紗衣『レアリアI』
雪乃紗衣『レアリアII―仮面の皇子―』
吉上亮『生存賭博』
杉江松恋、神崎裕也『ウロボロス ORIGINAL NOVEL―イクオ篇―』
杉江松恋、神崎裕也『ウロボロス ORIGINAL NOVEL―タツヤ篇―』
杉江松恋、神崎裕也『ウロボロス ORIGINAL NOVEL―署長暗殺事件篇―』
河端ジュン一、コースケ『GANGSTA.―オリジナルノベル―』
竹宮ゆゆこ『砕け散るところを見せてあげる』の刊行を記念して、竹宮さんと編集長Tとで関東の書店さんにご挨拶に伺いました。
「今年はこれですね!」という声、圧倒的な展開……。書店員さんの心からの応援に、感謝の言葉もありません。本当に、ありがとうございました。
※写真は、紀伊國屋書店新宿本店さん(左)、ブックファースト渋谷文化村通り店さん(右)です。
サイン本ほか、店頭用の特製色紙なども作らせていただきました。立ち寄られた際には、ぜひご覧ください。


また、6月4日には、三省堂書店池袋本店さんにて、竹宮さんのサイン会を開催いたしました。
サイン会後、三省堂さんでは文庫ランキングで第1位に……!
このほか、全国の書店さんから「第1位です!」という連絡を多数いただいています。大変ありがたいです。


以下が伺った書店さんになります。
お忙しい中、誠にありがとうございました。
三省堂書店 成城店様、紀伊國屋書店 西武渋谷店様、ブックファースト 渋谷文化村通り店様、MARUZEN&ジュンク堂書店 渋谷店様、ブックスルーエ様、ジュンク堂書店 吉祥寺店様、啓文堂書店 吉祥寺店様、文禄堂 高円寺店様、ブックエキスプレス エキュート上野店様、明正堂 アトレ上野店様、ブックエキスプレス エキュート品川サウス店様、あおい書店 川崎駅前店様、丸善 ラゾーナ川崎店様、紀伊國屋書店 横浜店様、有隣堂横浜駅 西口店様、オリオン書房 所沢様、三省堂書店 神保町本店様、書泉グランデ様、丸善 お茶の水店様、書泉ブックタワー様、丸善 丸の内本店様、ブックファースト 新宿店様、ブックファースト ルミネ新宿店様、紀伊國屋書店 新宿南店様、紀伊國屋書店 新宿本店様、三省堂書店 池袋本店様、ジュンク堂書店 池袋本店様、東京旭屋書店 池袋店様、くまざわ書店 池袋店様、三省堂書店 東京駅一番街店様

【あらすじ】
11月19日午前6時42分。僕は彼女に再会した。
あるはずのない出会いは安定していた僕の高校生活を一変させる。
奇妙な島。事件。そこに秘められた謎。
僕は、彼女はどうしてここにるのか。
やがて明かされる真相は僕らの青春に残酷な現実を突きつける。
この物語はどうしようもなく、彼女に出会った時から始まる――。
失くしたものはなにか。心を穿つ青春ミステリー。
<期間>
2016年6月22日 (水) ~2016年6月26日 (日)
【全席自由席・税込】
前売券:4,200円
当日券:4,500円
【全席自由席・税込/カンフェティ取扱チケット】
前売券:4,200円
詳しくは≫≫劇団た組。第9回目公演 舞台「いなくなれ、群青」

「砕け散るところを見せてあげる」にも、タイトルから、「妖怪〇〇してあげる」がいる。作中でも、主人公の濱田清澄はときにその言い回しを口に出す。清澄は、女手一つで自分を育ててくれた母を早く楽にさせてあげたい(出たっ!)ため、地元の国立大学の受験勉強に励む高校三年生。彼は同じ学校の後輩、蔵本玻璃へのいじめを目撃し、彼女のことがほっとけなくなる。玻璃をいじめから救うヒーローになると誓った清澄は受験勉強の時間を割いてまで、玻璃を守っていく。
二人の距離が近づくにつれ、「俺がいてやればよかったのに」など、「〇〇してあげる」と清澄は言う。でもその言葉の裏には、無力な玻璃を見下す自己満足ではなく、もろい自分への自己啓発があった。素直で単純そうな清澄は実は煩わしく、その真っ直ぐなのに捻くれた複雑な性格は物語を通して徐々に浮き彫りになっていく。そしてその真の複雑さを知るのは、物語が終わってから。憧れのヒーローになるために、清澄は自分にも、読者にも嘘をついていたのだ。となると、タイトルの「砕け散るところを見せてあげる」とは、一体誰の言葉なのか……。
ヒロインの玻璃も複雑な性格の持ち主。竹宮作品ではお馴染みの暗い影の持ち主で、「とらドラ!」や「ゴールデンタイム」しかり、その影の正体を知れば知るほど、辛さが重く押しかけてくる。「とらドラ!」や「ゴールデンタイム」の華やかなヴィジュアルのヒロインたちと違って、玻璃は影をベールに包むことができず、闇の存在が剥き出し。現実世界では信じられないような闇だけど、最初からそういった暗い過去が垣間見えたせいか、読者として比較的受け入れやすい。さらに彼女の仕草や表情の描写には二次元で脳内再生しやすい軽快さがあって、内容の割には重苦しさがない。やっと出会えた玻璃の笑顔のインパクトも大きく、涙を堪えてうつむく最初の玻璃のイメージもすぐに上書きされる。そして玻璃と清澄のユーモア溢れる掛け合いもライトに味わえる。
だからこそ、気が付かない内に、凄い場所に連れて行かれる。清澄のウィットに富んだツッコミを楽しんでいたと思いきや、不意打ちのように、青春物語は急変する。いつの間にか、想像を絶する展開に胸を突かれる。まるでひき逃げにあったよう。
「砕け散るところを見せてあげる」には、誰かのためになにかしてあげたい、というシンプルな欲求を必死に叶えようとする人たちがいる。清澄、クラスメートの田丸、尾崎姉妹……。できることの大小はあっても、想いは一緒かもしれない。何かしてあげたい。「誰かのために何かする」を超える、より距離の近い、「してあげたい」に込められた想い。人から人に、繋がっていく思い。
人のためになにかしてあげたい気持ち。冒頭のカップルとは違う、切実な気持ち。妖怪なんて呼んで、ごめんなさい。
(いちかわ・さや モデル)
竹宮ゆゆこ『砕け散るところを見せてあげる』
【著者メッセージ】
あんな奴、消えてしまえ――そう思ったことはありませんか?
「1年D組」なら、きっとあなたの仲間が見つかるはずです。
1年D組の担任・羽田勝が刺殺体で発見された。人気教師だった彼は、クラスを支配する女王・麻耶とその取り巻き達に媚び、立場の弱い生徒をイジる素顔を隠し持っていた。彼を恨む生徒たちは多数。
婚約者である教師の優香も、羽田に結婚式延期を切り出されており、優香に横恋慕する化学教師・鈴木もまた彼に嫉妬心を燃やしていた事が明らかになる。
容疑者多数の状況で警察が捜査が進む中、保健室を介して、イジられ役の生徒たちへ謎の手紙が届き始める。次々に明かされていく上位メンバーの裏切り、秘密の過去。そして、イジられ役から復讐の悪魔が誕生し――。
D組に復讐と裏切りのゲームが広がる中、第2、第3の死者が発生。
全てを計画した“神”の正体とは!?

十八世紀、地方の町で暮らす女の子。十六歳。ひょんなことから無人のタイムマシンを山中で見つけた。父は岡っ引き(詳しくは『トリモノート』を)。
舟彦(ふなひこ)
お星の幼なじみ。同い歳。親は文具屋。学者先生の家で働いていたことがある。感化されて、一人称は「ぼく」。タイムマシンの中にあるいろんなアイテムを研究中。
【第四問】
次に登場するXXXXXXXXが何か、当ててください。二十一世紀のみなさんがよく知っている道具です。お星たちは十八世紀の人間だから、それが何かわかっていないようですが。
舟彦、店番中。
店には舟彦とお星が二人きり。二人は机をはさんで座っていた。
いま、お星は呆れていた。舟彦が得意そうにXXXXXXXXを頭にかぶっていたからだ。お星はあらためてはっきりと指摘した。
「うち、それはそうやって使うんやないと思う」
舟彦は動じない。
「おいおい、この形だぞ。おそらくこうやって使うものだと思うがね。見映えがするだろう?」
XXXXXXXXはこれまた、タイムマシンから舟彦が持ってきたアイテム。その形状をヒントにして、舟彦はXXXXXXXXが海外で定着しているファッションだと考えた。で、自らそれを頭にかぶってみたのであった。
「めっさ見映えせんよ」
「見慣れればそうでもないはずだ。それに、少々見映えせずとも、きっと雨をしのいでくれる。実用的な代物さ」
「ほうか? それ、いまにも落っこちそうやけど?」
「いや、そう見えるかもしれないが、意外と……」
ぽとりっ。
舟彦が身体を揺らした拍子に、XXXXXXXXは机の上に落っこちた。
顔を赤らめて言葉を足す舟彦。
「……本来は紐をつけて、顎のところで結ぶのであろう。そうすればこういうふうに落っこちることもあるまい。どうだ、お星も使ってみるか?」
「いやじゃ。けたくそわるいわ」
お星たちがそんな会話をしていると、
「あのゥ、ごめんください」
突然、店先から声が聞こえた。
お星が振りかえると、店先には一人の婦人がいた。客が来たのである。
お星はとっさに机の上のXXXXXXXXを気にした。この町で見慣れないアイテムについて、なんといわれるかわかったものではない。ややこしいことにならないよう、一応隠しておこうと考えた。
けれども、お星の手が動く前に、客はさっさと店の奥にやってきた。XXXXXXXXが落ちている机を目の前にして、
「墨を買いたいのですが……」
などといって、何事もなく買いものをはじめた。机の向こうで、ぎこちなく客に応じる舟彦。彼もXXXXXXXXのことが気がかりのようだ。
だが、見慣れないはずのXXXXXXXXがずっと机の上にあったにもかかわらず、客はそれを気にしていない様子。やがて買い物を終えて、XXXXXXXXには一言も触れず帰っていった。
お星はつぶやいた。
「ほらほうか。なんちゃいわれんで当たり前やな」
さて、XXXXXXXXとは何か?
クリアファイルを広げると、頭巾・フードあるいは兜のような形になる。この形をヒントにして、舟彦はクリアファイルを頭にかぶるものと思いこんだのであった(ちなみに数日後舟彦はクリアファイルが文房具だと気づくことになる。そのときに彼が味わった恥ずかしさはご想像に任せる)。 客がクリアファイルに気づかなかった理由だが、落ちついて考えるとお星にもよくわかった。簡単な話で、クリアファイルが透明だから、客に視認されなかっただけだ。
「冷や冷やしたね。こんなものが見つかったところでべつに騒ぎにはならないと思うが」
と、舟彦。
「うちも冷や冷やしたわ。けどそれ、色がないけん、よほど気をつけんと見えん。冷や冷やせんでよかったんじゃ」
「水のように透け、水のように柔らかいから〈水兜〉と名付けよう」
「ほんまそれ頭にかぶるもんか?」
お星はその点にこだわった。が、舟彦はお星の言葉を気にせず、思いだしたようにいう。
「よほど気をつけんと見えん……か。もしいまのが渦之丞さんだったとしても、やはり見つからなかっただろうか?」
渦之丞というのは、お星の父とはべつの、もう一人の岡っ引き。かつてはイカサマ賭博で暮らしていたが、いまではお上から厚く信頼されている男だ。
「あー、それはどっかなー」
目ざとい渦之丞なら見つけていたかもしれない。
舟彦は岡っ引きとしての渦之丞について、いろいろと思いを持っていると見える。
「いまから〈水兜〉をつけて渦之丞さんに会いにいき、試してみようか?」
にやにやと冗談まじりに舟彦がそういい、クリアファイルを広げて頭にかぶった。とても不安定。「いまにも落っこちそう」とお星がいうのも無理はない。何より、ださい。ださすぎる。ださださである。
「いや、〈水兜〉はほとんど見えんけど、あんたの髪がおかしなっとるんはよう見える。頭にかぶっとったら、うちでもすぐ気づくわ」
二人は腹を抱えて笑ったとさ。
さて……ここでお星は、笑いながらぼんやりと考えた。渦之丞は気づくかもしれない。しかし同じ岡っ引きでも、自分の父なら抜けていて、たぶん気づかないだろう、と。でもお星は、だからといって父をとりたてて悪くは思わなかった。目ざといかどうか、そんなことは岡っ引きとしていちばん大切なことではないと思うからだ。異国の雑貨を使いこなすのも、いちばん大切なこととはまたちがう気もする。
といっても、何がいちばん大切なことかと問われても困ってしまうが。
岡っ引きにとっては、何がいちばん大切なんだろう。お星は思いを馳せた。今日だけではない。お星はそんなふうなことをしばしば考える。(終)
十八世紀、地方の町で暮らす女の子。十六歳。ひょんなことから無人のタイムマシンを山中で見つけた。父は岡っ引き(詳しくは『トリモノート』を)。
舟彦(ふなひこ)
お星の幼なじみ。同い歳。親は文具屋。学者先生の家で働いていたことがある。感化されて、一人称は「ぼく」。タイムマシンの中にあるいろんなアイテムを研究中。
【第三問】
次に登場するXXXXXXが何か、当ててください。二十一世紀のみなさんがよく知っている道具です。お星たちは十八世紀の人間だから、それが何かわかっていないようですが。
一人で店番している舟彦を訪ねたお星。舟彦の手にあるXXXXXXを一目見て、そう尋ねた。舟彦はXXXXXXをお星にさしだして、
「そうだ。なんのための道具か、よく考えたいと思って持ってきた」
お星はXXXXXXを両手で握り、うーんと唸って考えて、
「わかった。万華鏡やろ?」
「だが、ただの万華鏡にしては、底がない」
「底がない? そりゃまた、けったいな万華鏡やな。けど、〈光る家〉にあるもんはけったいなもんばっかりじゃ。底がなくてもなんとかなるんちゃうか?」
といって早速、XXXXXXの中を片目で覗きこむ。
「……なんちゃならんな。こりゃつまらん」
「ぼくもはじめはそうしたんだけどね。でも、よく考えて、いまではべつのことを考えている」
お星は顔をあげた。
「どゆこと?」
舟彦はお星から受け取ったXXXXXXを膝元に置いた。つづいて、骨董品を見る鑑定士のようにあちこちの角度から鑑賞しはじめた。
「こうやって見るのが正しいのではないか、と」
「へえ!」
「はじめはこれでもつまらんと思ったが、見慣れてくると万華鏡よりも風情があってよい。そう考えて、風情を味わっていたところだったのだよ」
さて、XXXXXXとは何か?
鏡のようだという第一印象のため、二人は万華鏡を連想したのであった。アルミホイルを芯ごと立てて、それがちかちかと光を反射するさまに風情を感じた舟彦は、アルミホイルを〈逆万華鏡〉と名付けたとさ。(終)
十八世紀、地方の町で暮らす女の子。十六歳。ひょんなことから無人のタイムマシンを山中で見つけた。父は岡っ引き(詳しくは『トリモノート』を)。
舟彦(ふなひこ)
お星の幼なじみ。同い歳。親は文具屋。学者先生の家で働いていたことがある。感化されて、一人称は「ぼく」。タイムマシンの中にあるいろんなアイテムを研究中。
【第二問】
次に登場するXXXが何か、当ててください。二十一世紀のみなさんがよく知っている道具です。お星たちは十八世紀の人間だから、それが何かわかっていないようですが。
「舟彦」
と、お星が声をかけると、舟彦は顔をあげて、
「何がいるの?」
「買いに来たんとちゃう。暇なら、うち来まい。もらいもんのくだもんが余っとるんじゃ。食ってけ」
「いいの?」
「お父にいわれて呼びにきたんじゃ。けど……、お父は舟彦と将棋したがっとるけん、うち来たら将棋の相手することになるぞ。いやなら、舟彦忙しそうやったってゆっとく」
「いまは何もすることがないから、大丈夫。ありがたくご馳走になるよ」
といって、舟彦はいったん店の奥にひっこむ。出てきたとき、舟彦はXXXを手にしていた。XXXを見て、お星は目を剥いた。
「げえ。なんじゃ、それは」
「〈光る家〉にあったものさ。果物を食べるときに使う道具だ」
「なんやへんな形やけど、そんなんでものを食うん? ほんまか?」
「本当だ。昔、先生の家で、海の向こうの人たちが果物を食べるときに使う道具を教えてもらったことがある。まさしくこれと同じものだった。だからいわば先生の折り紙つきさ」
「ほうか。ほんならええけど……、うちは使わんけんな」
「けっこうけっこう。だがいつか、時代遅れといわれるかもしれないぜ。ぼくはこれを〈異国箸〉と呼んでいる。とても使い勝手がよい。ゆくゆくはぼくたちの暮らしにも取りいれられるのではないかと考えているのだ」
こうしてお星の家にお呼ばれした舟彦。XXX、もとい〈異国箸〉で柿をうまうまと食べたのであった。
そして後日、お星と舟彦が〈光る家〉で二人きりのとき……。
お星は〈光る家〉の棚を掃除していたが、棚の隅っこから出てきたものを見て、
「なあ、舟彦」
「どうした?」
「ようわからんが……、こいつは〈異国箸〉のための箸置きか? よう似た形しとるな」
さて、 XXX とは何か?
舟彦はむろん、スパナとフォークを混同している。お星がタイムマシンの中で見つけたのは六角ナットであった。
ちなみに、まずは箸置きだと思ったお星だが、考えなおして、「ここで〈異国箸〉を作ったんやろか。これ、穴をくりぬいた余りちゃう?」
といった。いっぽう舟彦は六角ナットが工具であると直感的に理解した。スパナの用途を自分が勘違いしていたと知り、耳まで顔を真っ赤にしたそうな。(終)
第三問は4月12日(火)公開予定! ■第一問はこちら
十八世紀、地方の町で暮らす女の子。十六歳。ひょんなことから無人のタイムマシンを山中で見つけた。父は岡っ引き(詳しくは『トリモノート』を)。
舟彦(ふなひこ)
お星の幼なじみ。同い歳。親は文具屋。学者先生の家で働いていたことがある。感化されて、一人称は「ぼく」。タイムマシンの中にあるいろんなアイテムを研究中。
二人はタイムマシンを〈光る家〉と呼ぶ。
それが時間を移動できる乗り物だとはまだ気づいていない。
タイムマシンの中にあるアイテムの数々にびっくりしていて、
それらの用途について考えている二人であった。
おや。彼らは今日も、アイテムの一つを話題にしているようだ。
何について話しているのだろう?
【第一問】
次に登場するXXXXXXが何か、当ててください。
二十一世紀のみなさんがよく知っている道具です。お星たちは十八世紀の人間だから、それが何かわかっていないようですが。
お星は舟彦の店を訪ねた。舟彦は一人で暇そうに店番していた。舟彦の手元にはXXXXXXがあった。 「お、舟彦。変わったやじろべえを持っとるな。〈光る家〉にあったんか?」
XXXXXXはお星にとって、見慣れない造形をしていた。舟彦はXXXXXXを手でぎゅっと握って前につきだし、お星に見せつけた。
「そうだ。よくできているだろう?」
「せやな。ほんじゃけど、こいつ、頭がないぞ。もげたんか?」
「はじめから頭がないのだ」
「ええっ? そんなん気味悪い」
はっはっは、と舟彦は大口開いて笑った。
「気味悪いときたか。お星は風情のわからぬ娘だな。どんなに人形を人に近づけても、人形と人はちがう。ならば、いっそ頭を取ってしまい、大胆にちがいをつけてもいいではないか。それが風情というものだ」
「ほう……、そんなものか」
お星はすこし納得した。
舟彦は強く頷いた。
「そんなものだ。頭のないことが、このやじろべえの風情であり、ぼくたちはそいつを楽しむべきなのだ」
「風情ねェ。あいかわらず難しげな言葉を使うなあ、あんたは」
舟彦はXXXXXXを右手のひとさし指の上に乗せた。手を動かすと、XXXXXXはぶらぶらと振れた。たしかに、やじろべえっぽい。
だが、しばらく見入ったのち、お星はあっと声をあげた。
「こいつ、頭ないくせに尾っぽがあるんか!」
「これが本当の、頭隠して尻隠さず」
といって舟彦がくすりと笑った。
これもまた風情と考えているようだ。
さて、XXXXXXとは何か?
尾っぽとはコードのこと。舟彦がヘッドフォンを握っているときには手の中に隠れていた。ヘッドフォンがひとさし指の上で揺らされているとき、コードははじめ丸まった状態で、ヘッドフォンの耳を当てる部分に乗っかっていた。しかしそのうち下に垂れさがった。お星はこれを見てあっと声をあげたのである。
ちなみに後日、舟彦はタイムマシンの中でヘッドフォンの説明書を発見した。海外の文字だったために読めなかったが、イラストを見て、これがやじろべえでないことにすぐに気づいた。今度は自信まんまんに、
「こうやって耳につけるものだった。はっはっは、耳が暖かくてよいぞ!」
といった。そしたらお星はこう指摘したとさ。
「やはり尾っぽがいらん。邪魔そうじゃ」(終)
第二問は4月8日(金)公開予定!
『仮面病棟』「天久鷹央(あめくたかお)」シリーズがともに20万部を超えるなど、いま最も勢いのある作家、知念実希人。現役医師の知見を活かした医療ミステリーを続々と発表する著者が、自身の作品について語った。

――『天久鷹央の推理カルテ』は、不可思議な事件の原因が、実は身近な“病気”にあることがわかるメディカル・ミステリーですね。
知念 「天久鷹央」シリーズで起きる怪奇現象は、一見ありえないものですが、解答として提示されるのは全て実際に起こり得る“病気”です。“こんな症例があるのか!”という驚きを作る一方で、病院、医学、病の様々な側面を描き、楽しく勉強できる小説を目指しています。
――探偵役の天久鷹央が非常にユニークなキャラクターです。
知念 この作品は、自分が学生時代に読んで好きだった「シャーロック・ホームズ」や「御手洗潔」といった名探偵のシリーズを受けて書いた、僕にとっての本格ミステリーです。医学的なリアリティを追求しつつ、天才医師である鷹央のキャラクター性や会話のやり取りには、気を配っています。書いていて、楽しいシリーズですね。
――一方、『仮面病棟』は病院で起こる籠城事件を描いた医療サスペンスです。密室と化した病院での息詰まる心理戦に圧倒されます。
知念 『仮面病棟』は、とにかく勢い良く読める小説にしたかった。少ない登場人物。どんどん転がる物語。速くぺージを捲らせたい、一気読みしてもらいたい、との気持ちで、いろいろ工夫を凝らしています。いちばん苦労したのは、病院の構造ですね。文庫には各階のフロア図がついていますが、事件と構造に矛盾がないよう、何度も練り直しました。
――啓文堂文庫大賞で1位に輝くなど、書店員さんに支持されています。
知念 ありがたいことです。刊行から一年後に火が付いたのも、そうした書店員さんの力があったからだと思います。“実際にこんなことが起こりますか?”と聞かれたこともありますが、夜の療養型病院というのは、独特の雰囲気があって、何かが起こりそうなんです。そんな空気を、物語として昇華させています。
――療養型病院といえば、「天久鷹央」の第2巻でも登場していますね。ただ、描かれている雰囲気は、少し違う印象です。
知念 「天久鷹央」シリーズは病院の明るい側面、表の部分を書こうとしています。患者さんと接し、診断を下す医療の現場ですね。他方、『仮面病棟』では病院の裏の顔、医療の負の部分に踏み込んでいます。療養型病院の扱いの違いは、後者で起きる事件が医療問題の深いところと密接に関わっているからです。
――知念作品を初めて読む方には、どちらがオススメでしょうか。
知念 どちらから読んでも楽しめる物語として書いていますし、どちらかを「面白い!」と思っていただけたなら、ぜひもう一方も手に取ってもらいたいですね。医療ミステリーの様々な面白さを、体感してもらえると思います。
(2015年12月 新潮社にて)

ケーキを買うお金を持っていない子供だけが本当のケーキの価値を知っている。
文庫本の端を折って、忘れないように、またいつでも読み返せるように、大事にとっておきたくなる、言葉。河野裕さんの小説には、そんな魅力的な言葉が溢れている。
本作は『いなくなれ、群青』『その白さえ噓だとしても』に続く、階段島シリーズの第三作だ。物語は、階段島という、少し奇妙な島を舞台に展開される。階段島は七平方キロメートル程度の小さな島で、そこでは約二〇〇〇人の住人が暮らしている。この島には大きな特徴がある。それは、人々が島にやってきた経緯を覚えていないこと。アマゾンの配送サービスは届くのに、グーグルマップには表示されない場所であること。そして、みなが「捨てられた人」である、ということだ。島で暮らす高校生、七草は数ヶ月前にここにやってきて以来、不穏ながらも平和でのどかな生活を気に入っていたが、かつての同級生・真辺由宇との再会をきっかけに、階段島の謎に迫っていく。
捨てられた人? それはどういう意味だろう。現代において人が「捨てられる」なんてことが、あるのだろうか。はじめてこのシリーズに触れる読者は、独特の設定に驚くかもしれない。実は私も、そうだった。だが、ほんの数ページ、河野さんの文章に触れれば、そんな違和感は消えてなくなり、この世界にぐっと惹きこまれる。個性的なキャラクター。島の謎に迫るスリリングな展開。右を見ても左を見ても、わくわくするばかりだ。そんな魅力の尽きない階段島シリーズにおいて、私が何より惹かれるのは、河野さんの言葉である。
冒頭の引用は、第二作『その白さえ噓だとしても』からだが、もちろん本作にも、魅力的な文章や言い回しがたくさん登場する。特に私の心を抉ったのが、以下の文章だ。
役割を忘れて話ができるのが友達だと思う。
私事だが、ちょうどこの小説を読んでいるとき、私は「友達」の定義について、悩んでいた。友人に「加恋の友達のラインはどこからなの」と聞かれ、うーん、と考え込んでしまったのだ。でも、この文章を読んで、そうか、と思い、河野さんの言葉をそのまま友人に伝えた。そんな風にして、私は小説に、小説の言葉に、助けられている。中でも階段島シリーズは、刺さる言葉が本当に多く、あれもこれも、メモしてしまう。
人は何を捨てて、階段島にやってきたのか。その謎の解明については第一作『いなくなれ、群青』を読んでもらわねばならない。この島を統べる人物は誰なのか。こちらの謎は、第二作『その白さえ噓だとしても』で明らかになる。
そして、第三作となる本作では、階段島から舞台を移し、私たちの「現実」に近い場所で物語が進んでいく。本作をもっとも特徴づけるのは、新キャラクターの少女、安達だ。彼女は、怖い。何を考えているのか、まったくわからない。本人は「気安い友達、の二文字目と五文字目で、安達」などと自己紹介しているが、ちっとも気安い感じがしない。このシリーズにおいて、私が初めて「怖い」と感じた人間だ。ミステリアスで、常に主人公の裏をかく少女は、階段島に波乱を運んでくる気がしてならない。
安達の真意はどこにあるのか。七草と真辺はどうなるのか。今後、階段島で何が起こるのか。作品を重ねるごとに謎は増え、シリーズの魅力も増していく。一度読み出したら、まず止まらない。未読の方には『いなくなれ、群青』を、一作目を読んだ方には二作目を、そして二作を読んでいるのなら、絶対にこの三作目『汚れた赤を恋と呼ぶんだ』を薦めたい。私のように言葉に惹かれるもよし、階段島の設定にやられるもよし、七草と真辺の未来にヤキモキするもよし。とにかく、心から、読んでほしい、と思う。ハマりますよ?
(みやま・かれん 女優)
河野裕『汚れた赤を恋と呼ぶんだ』
「SUGOI JAPAN Award2016」エンタメ小説部門の中間発表において、『いなくなれ、群青』『その白さえ嘘だとしても』『汚れた赤を恋と呼ぶんだ』の「階段島シリーズ」が上位5作入りです!
同賞の投票者プレゼントには、河野裕さんのサイン本もありますので、みなさまもご投票を、ぜひ。
http://sugoi-japan.jp/sugoi/interim_report.html

“ファンが支持する作品を国民投票によって選出する史上空前の試み”である「SUGOI JAPAN Award」、投票期限は2016年1月3日です。「階段島」シリーズ以外にも、素晴らしい作品がノミネートされていますので、みなさま投票を、ぜひ!
http://sugoi-japan.jp/nominees/novels.html
僕は高校時代、演劇部に所属していました。
脚本を書きたいという思いと、舞台の上で自分と違う人間になって立ち回ることに興味があったからです。でも、入ってから気づいたことは、演劇とはけしてキャストだけでは成立しないということでした。音響・照明・大道具・小道具・衣装・メイク......舞台を作り上げようというスタッフがいてこその演劇なのです。
演劇部の青春モノと聞けば、演じる側にスポットを当てて描くのが常でしょう。当然です。スポットはキャストに当てるもの。スタッフに当てるスポットなどありえないのですから。
でも、スタッフのほうを中心に描く小説があってもいいのではないか。そんな思いに突き動かされて構想を練ったのがこの話です。さらに、演劇部といえばキャストは女子、スタッフは男子などという先入観がなんとなくある気がしたので、これを逆転させてみました。
駒川台高校演劇部は、キャストが全員男子、スタッフは全員女子という部活なのです。はたしてどんなドラマが生まれるのか。本当の意味での「舞台裏」を描いた、珍しい作品です。どうぞ、楽しんでください。

キャラクター紹介
【美咲】
高2。この物語の主人公。ごくごく普通の女の子。ナナコのおかげで"変人・奇人"耐性が強い。父親の借金返済のためにバイトに明け暮れるなど、家族想いのまじめな性格。演劇初心者ながら、ナナコに代わって舞台監督役に取り組み、徐々に演劇の魅力にハマっていく。
【ナナコ】
高2。破天荒で型破りすぎる性格。"白血病的な"原因不明の病気の治療で入院することに。好物はキビナゴ。
【トミー】
高2。ガチンコ理系女子。趣味は機械いじり。誰にでも「です」「ます」調で話す。趣味は効果音収集、加工。
【りかぽん】
高1。背が低く、ツインテールが似合うロリ系女子。実家が工務店で、父の職人技を見て育ち、大工仕事が得意。ピンクジャージがトレードマーク。
【ジュリア】
高1。大人っぽく、整った容姿の持ち主。少し物言いがキツイのが珠に瑕。意外な経歴の持ち主で、特技は美術。
【早乙女先輩】
高3。演劇に全力を注ぐ奇人。独特のユーモアセンスがあり、オリジナル脚本を生み出す天才。(作中で「走るなメロス」と「白柚子姫と六人の忍者」のあらすじが読めます♪)
【西野先輩】
高3。演技力もある、駒川台高校で五指に入るイケメン(美咲評)。落ち着きもあり、キャスト男子の要の存在。

≫新潮文庫編集部 - 新潮文庫nex総選挙 2015|Shincho LIVE!


熱烈な歓迎、応援をいただき、本当に嬉しく、ありがたかったです。
(写真は、大盛堂書店さん(左)、ヴィレッジヴァンガード 下北沢店さん(右)の大展開......!)
サイン本ほか、店頭用の特製色紙なども作らせていただきました。立ち寄られた際には、ぜひご覧ください。

以下が伺った書店さんです。
お忙しい中、ありがとうございました。
青山ブックセンター 本店様、紀伊國屋書店 西武渋谷店様、パルコブックセンター 渋谷店様、大盛堂書店様、B&B様、ヴィレッジヴァンガード 下北沢店様、ジュンク堂書店 吉祥寺店様、ブックスルーエ様、パルコブックセンター 吉祥寺店様、ブックファースト アトレ吉祥寺店様、三省堂書店 池袋本店様、ジュンク堂書店 池袋本店様、紀伊國屋書店 新宿本店様、ブックファースト 新宿店様、ブックファースト ルミネ新宿店様、紀伊國屋書店 新宿南店様、丸善 丸の内本店様、マルノウチリーディングスタイル様、三省堂書店 神保町本店様、あおい書店 川崎駅前店様、丸善 ラゾーナ川崎店様、有隣堂 横浜駅西口店様、有隣堂 ルミネ横浜店様、紀伊國屋書店 横浜店様、有隣堂 伊勢佐木町本店様。


『レアリアII―仮面の皇子―』、発刊です。分厚いです(苦笑)。
さて、私は大人になってからわりと手紙を書くようになりました。最初は何とはなしに祖父へ。それまで年賀状以外に葉書なぞ買わなかったのですが。すぐに祖父から「拝復」と返事がきました。美しいブルーブラックの、流麗な万年筆の文字でした。文面は――「御元氣そうな(←「気」でない)、お姿が目に浮かぶ様、お葉書頂き嬉しく存じます。(中略)尚、体には充分気をつけてお働き下さい...」...昭和の文豪ですか、おじいさん! 相手が目上でも目下でも孫でもきっと変わらぬ文章に違いない。日頃べらんめぇな祖父の本質を見る思いがし、驚くと同時にスチャラカな葉書を送った己に恥じ入ったものです。以来、折々に手紙を書くようになり、返事も高確率でポストにきます。このご時世で。
レアリアIIにも「手紙」が出てきます。時間をかけねば書けない手紙、誰かから誰かへ。最後が誰の手紙かは、作中にて。
また、作中に出てくる名誉学長ペトラルカにはモデル(?)がいます。尾崎翠さんの「地下室アントンの一夜」の登場人物。初めて読んだ時「これを80年前に書いてしまうのか!」と衝撃を受けました。25Pほどの短い物語で、新潮文庫『日本文学100年の名作第2巻1924-1933 幸福の持参者』の中に収録されております。ええ、ネタにするなら本のタイトルもしっかり宣伝して下さいね! と担当に釘を刺されましたゆえに。
私から読者の皆様への夏のご挨拶、この本にてかえさせていただきたく。遅くなりましたが、Ⅱ巻、少しでも楽しんでいただければ...と思います。
感謝をこめて。
シリーズ60万部「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」でおなじみ太田紫織氏の新シリーズ刊行を記念して、作品の登場人物たちが愛する英ヴィクトリア朝時代のスタイルを忠実に再現した豪華ドレスを1名様にプレゼント。杉野服飾大学が監修と制作を担当し、当選者のためだけにフルオーダーで手作りします。

■概要
英ヴィクトリア朝時代のスタイルを忠実に再現した豪華ドレスを1名様にプレゼント。
杉野服飾大学の専門家が監修と制作を担当し、当選者のためだけにフルオーダーで手作りします。
■応募方法
次の(a)(b)どちらでもご応募できます。
(a)ハガキに郵便番号、住所、氏名、年齢、職業、電話番号をお書きの上、当社までお送りください。
宛先:〒162-8711 東京都新宿区矢来町71 新潮文庫編集部「本格ヴィクトリア朝ドレス」係
締切:2015年12月31日(当日消印有効)
(b)本キャンペーン公式ツイッターアカウント(@dress_shincho)をフォローし、
ハッシュタグ「#オークブリッジ邸の笑わない貴婦人」をつけて感想を呟いてください。
締切:2015年12月31日23:59
■抽選・発表
厳正な抽選により当選者を決定し、新潮文庫編集部から直接ご連絡いたします。
■注意事項
*ドレスの制作には当選のご連絡から数ヶ月が必要です。なお、諸事情により完成が遅れる場合もございます。
*ドレス着用時に必要なドレスインナー等はプレゼントには含まれません。
*当選者はドレス採寸などのため、杉野服飾大学(東京・品川区)ほかにて数回の打ち合わせが必要です。
なお、交通費等は当選者の自己負担となります。
*制作にあたって取材のご協力をお願いする場合がございます。
*ご当選の権利はご本人のみ有効で、譲渡・換金はできません。
*ご応募に伴いご記入いただいた個人情報は、賞品の応募者・当選者への諸連絡用に利用させていただきます。
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大学読書人大賞
http://www.jpic.or.jp/dokushojin/

たくさんの投票、本当にありがとうございました!
(『いなくなれ、群青』『その白さえ嘘だとしても』)
2位 「天久鷹央の推理カルテ」シリーズ(既刊3巻) 167票
3位 ここで死神から残念なお知らせです。 92票
4位 知らない映画のサントラを聴く 52票
5位 レアリアⅠ 28票
今後、部数集計をぎりぎりまで行い、8月29日(土)に「投票ポイント」と「部数ポイント」を合算した「選抜ランキング」上位10書名を発表いたします。
※ツイッター投票の集計は、7月6日(月)正午の段階で行っています。

「キャラクター」と「物語」「文学」の融合を掲げた新潮文庫nexは、この1年で書き下ろし作品を中心に約40点の小説を刊行しました。
では、一年間で、最も読者を惹きつけた作品は、どれか――。
このシンプルかつ根源的な疑問に応えるべく、新潮文庫nexは「総選挙」を開催いたします。
総選挙上位となった「選抜作品」は、9月に書店で行われる「新潮文庫nex総選挙フェア」にて、大きく店頭展開されます!
●ランキングは、発行部数に応じた「部数ポイント」とネット投票数の「投票ポイント」の合算で決定します。
●投票は、ツイッターにて受け付けます。
●ハッシュタグ「#nex総選挙」を入れた上で、貴方がいちばん好きな作品名をツイートしてください。
※ツイート例:河野裕『いなくなれ、群青』#nex総選挙
●投票期間は、6月20日(土)~7月4日(土)24時です。
●投票は1アカウントにつき、1票のみ可能です。
●投票者のうち、抽選で5名に投票した作品の著者サイン入り色紙をプレゼントします。
●「本を買ってくれた方々」を最重視するため、合算の比重は「部数ポイント>投票ポイント」となります。
●シリーズ作品は、1作品と見做し、ポイントを合算します。
●「投票ポイント」ランキングは選挙速報として7月11日(土)に、「部数ポイント」と「投票ポイント」を合算した選抜ランキングは、8月29日(土)に発表します。
2. 河野裕『その白さえ嘘だとしても』
3. 神永学『革命のリベリオン―第I部 いつわりの世界―』
4. 神永学『革命のリベリオン―第II部 叛逆の狼煙―』
5. 雪乃紗衣『レアリア Ⅰ』
6. 竹宮ゆゆこ『知らない映画のサントラを聴く』
7. 朝井リョウ、飛鳥井千砂、越谷オサム、坂木司、徳永圭、似鳥鶏、三上延、吉川トリコ『この部屋で君と』
8. 神西亜樹『坂東蛍子、日常に飽き飽き』
9. 神西亜樹『坂東蛍子、屋上にて仇敵を待つ』
10. 七尾与史『バリ3探偵 圏内ちゃん』
11. 知念実希人『天久鷹央の推理カルテ』
12. 知念実希人『天久鷹央の推理カルテII―ファントムの病棟―』
13. 知念実希人『天久鷹央の推理カルテIII―密室のパラノイア―』
14. 篠原美季『迷宮庭園―華術師 宮籠彩人の謎解き―』
15. 篠原美季『雪月花の葬送―華術師 宮籠彩人の謎解き―』
16. 水生大海『消えない夏に僕らはいる』
17. 水生大海『君と過ごした嘘つきの秋』
18. 相沢沙呼『スキュラ&カリュブディス―死の口吻―』
19. 谷川流『絶望系』
20. 青柳碧人『ブタカン!~池谷美咲の演劇部日誌~』
21. 里見蘭『大神兄弟探偵社』
22. 里見蘭『暗殺者ソラ―大神兄弟探偵社―』
23. 小川一水『こちら、郵政省特別配達課(1)』
24. 小川一水『こちら、郵政省特別配達課(2)』
25. 森川智喜『未来探偵アドのネジれた事件簿―タイムパラドクスイリ―』
26. 三國青葉『かおばな剣士妖夏伝―人の恋路を邪魔する怨霊―』
27. 杉江松恋『ウロボロス ORIGINAL NOVEL―イクオ篇―』
28. 杉江松恋『ウロボロス ORIGINAL NOVEL―タツヤ篇―』
29. 仁木英之『僕僕先生 零』
30. 榎田ユウリ『ここで死神から残念なお知らせです。』
31. 秋田禎信『ひとつ火の粉の雪の中』
32. 島田荘司『ロシア幽霊軍艦事件―名探偵 御手洗潔―』
33. 島田荘司『御手洗潔と進々堂珈琲』
34. 瀬川コウ『謎好き乙女と奪われた青春』
35. 円居晩『シャーロック・ノート―学園裁判と密室の謎―』
36. 法条遥『忘却のレーテ』
37. 九頭竜正志『さとり世代探偵のゆるやかな日常』

ロックンロールバンドのスピッツ、ご存じですか?
私と同じくらいの世代なら知らない人はいないくらいメジャーなバンドで、有名な曲は『ロビンソン』、『空も飛べるはず』、『チェリー』など。
曲も歌声も素晴らしいのですが、私はとにかくこのバンドの歌詞が好きで、学生のころは読みふけっていました。ボードレールより好きです。フランス語を覚えればまた結果は変わるかもしれませんが、少なくとも今のところは。
さてこのスピッツの曲に『8823』というタイトルのものがあります。
おそらく私が高校一年生くらいの時期の曲なのですが、『8823』の一文にとにかく痺れました。
抜き出すと、この一行です。
君を不幸にできるのは 宇宙でただ一人だけ
凄まじいですね。
これと同じような文章を、何も考えず無神経に書いたら「君を幸せにできるのは世界で僕ひとりだけ」くらいになるのではないでしょうか。まったくレベルが違います。
ほかの部分は置いておいて、核心だけに絞ると、この文意で「不幸」という単語を選べるのが途方もないです。
私の基本的な考え方に、「否定の否定は肯定とだいたい同じ意味になる」というものがあります。もちろんまったく同じではないのですが、遠目にはそう違わないくらい同じになると思っています。
たとえば私は「愛は勝つ」とは恥ずかしくて書けませんが、「愛が弱いものだなんて誰にも証明できない」とは書けます。こういう風に、素直に肯定できないことを、否定の否定で表現するのが私にとっては自然なのです。
そこで「君を不幸にできるのは宇宙でただ一人だけ」です。
ポジティブな言葉が入るべき部分をネガティブな言葉に置き換えているのに、意味が反転していない。むしろ強調されている。この鋭さ。
私が遠回りして、2回否定しないとできないことを、一発で決めているわけです。
私は十五年間ずっと、この一文に憧れつづけています。
さて、「階段島シリーズ」のテーマのひとつは、「否定への否定」です。
私は子供のころ、実に様々なものに否定的でした。
夢は叶わないと思っていたし、たいていの正しいことは偽善的に見えて嫌いだったし、多くの愛情は身勝手な都合から生まれるのだろうと思っていました。実のところ、童話や昔話のハッピーエンドさえ信じられない子供だったのです。
そんな過去の自分への反論が、このシリーズです。
夢は叶わないという言葉に反論して、見え透いた正義感を嫌う感情に反論して、愛情の弱さに反論して。
あらゆる否定的な価値観に反論できたなら、すべてを肯定するのとそう変わらないくらい綺麗な小説になるかもしれません。
遠回りだとしても、私は私にとって自然な方法で、肯定的な物語を書きたいと思っています。
でも、その一方で、私は『8823』の一文を求めてもいます。
ポジティブをネガティブに置き換えても変わらない、強く鋭利でダイレクトなものがどこかにあるのではないかと探しています。
いずれにせよこの小説の素材は否定であり、ネガティブなものです。
それがいつかは肯定的な、ポジティブなものになると嬉しいです。
河野裕『いなくなれ、群青』(新潮文庫)が「2015大学読書人大賞」を受賞しました! 同賞は、大学文芸部員が"大学生に最も読んでほしい本"を選ぶもので、2008年に設立以来、伊坂幸太郎『マリアビートル』、伊藤計劃『ハーモニー』、冲方丁『天地明察』などが受賞しています。今年は九州大学文藝部の松浦優斗さんの推薦により『いなくなれ、群青』が受賞となりました。贈賞式は、6月12日(金)に日本出版クラブ会館にて開催されます。
大学読書人大賞
http://www.jpic.or.jp/dokushojin/
瀬川コウ『謎好き乙女と奪われた青春』の刊行を記念して、瀬川さんと担当Tとで仙台の書店さんにご挨拶に伺いました。
著者の瀬川さんは、仙台在住の東北大学3年生。本当に温かく迎えていただき、感謝、感激です。
サイン本ほか、ポスターなどの販促物にもサインをさせていただきました。立ち寄られた際には、ぜひご覧ください。
瀬川コウ『謎好き乙女と奪われた青春』の第一章をまるまる読める「無料お試し版」が配信中です。
瀬川コウ『謎好き乙女と奪われた青春』の第一章「誰にも気付かれずに花束を一瞬で入れ替える方法」を試し読みできる「無料お試し版」がネット書店にて配信中です。
彼女と「僕」が織りなす切なくほろ苦い青春ミステリ、まずはお試し版にて、ぜひ。
どうも、円居挽です。。
いきなりですが究極の名探偵とは何でしょうか?
......おそらく、すぐには答えが出ないと思います。。
勿論、私も真面目に考えてみました。隙のない捜査で確実に犯人を捕らえる元刑事、いかなる矛盾も解消して真実を解き明かす論理家(ロジシャン)、騙しの技術を応用してトリックを見破る奇術師、人間の心の動きを全て掌握し犯人すら思い通りに動かす老達人......いずれも凄腕の名探偵ですが、究極かと言われれば果たしてどうでしょうか。そもそも何を以て究極とするのか......こんな悩みから誕生したのが『シャーロック・ノート』です。。
さて、本作の主人公である剣峰成は家族と過去を理不尽に奪われた少年です。彼は大切なものを取り戻すために探偵養成学校である鷹司高校へと身を投じます。そんな成を待ち受けているのは仲間との楽しい学園生活ばかりではありません。優秀な探偵候補生、凄腕の名探偵、そして恐ろしい犯罪者......彼らとの"戦い"で成がこれからどのような成長を遂げるのか、そして彼は「究極の名探偵」となれるのか、作者の私も楽しみにしております。
新潮文庫の次世代ラインナップ「新潮文庫nex」電子版の配信がスタートです。
配信開始を記念して、13作品の冒頭部分を収録した「無料試し読みブックレット」も電子書店にて同時刊行。
河野裕『いなくなれ、群青』
神永学『革命のリベリオン―第I部 いつわりの世界―』
竹宮ゆゆこ『知らない映画のサントラを聴く』
朝井リョウ、飛鳥井千砂、越谷オサム、坂木司、徳永圭、似鳥鶏、三上延、吉川トリコ『この部屋で君と』
神西亜樹『坂東蛍子、日常に飽き飽き』
七尾与史『バリ3探偵 圏内ちゃん』
知念実希人『天久鷹央の推理カルテ』
篠原美季『迷宮庭園―華術師 宮籠彩人の謎解き―』
水生大海『消えない夏に僕らはいる』
相沢沙呼『スキュラ&カリュブディス―死の口吻― 』
青柳碧人『ブタカン!~池谷美咲の演劇部日誌~』
里見蘭『大神兄弟探偵社』
森川智喜『未来探偵アドのネジれた事件簿―タイムパラドクスイリ―』

青春、という言葉を聞いて思い起こす感情、感覚は百人百様だと思います。しかし、全員にとって悩みの時期であることは共通です。だからこそ様々な化学変化が起きやすく、あっと驚く結果になったりする――。
本作の主人公とヒロインは、一癖も二癖もあります。そこにこそ、唯一と言っていい関係性が生じるのです。二人の、二人だけの、どちらか一方が別の人物だったら成り立たないというような関係が、自分は大好きです。その気持ちをぎゅうぎゅうと込めて、このお話を書きました。
この小説は日常の謎、青春ミステリと呼ばれるものですが、心洗われるような清々しい青春ではありません。如何せん主人公が主人公、ヒロインがヒロインなので協力はしないですし、むしろ探偵vs探偵という形で常に騙し合う関係だったりします。いっそ逆に清々しいかもしれません。
そんな二人が謎にどう立ち向かうのか、そして二人自身の謎とは何なのか。
楽しんでいただけたのなら、作者としてこれ以上ない喜びです。
二人だけの青春を、どうぞ垣間見てください。
二〇一四年九月、「キャラクター」と「物語」の融合を謳って、新潮文庫nexの刊行が開始された。しかし、それが魅力的な作品を多数産み出していることは確かにせよ、具体的な理念はまだ読者に伝わっていないように思われる。ライトノベルでも純文学でもないが、「キャラクター」を軸に据えた小説。これだけではイメージを作ることは難しいかもしれない。けれど、すでに刊行された作品の中に、「キャラクター」の吸引力をまざまざと見せつけてくるものが存在する。それが竹宮ゆゆこによる『知らない映画のサントラを聴く』である。
彼女はこれまでもライトノベルの領域で、『とらドラ!』や『ゴールデンタイム』といった作品において文体へのこだわりを見せてきたが、その姿勢は本書において一層強調される。頻出する固有名詞、体言止めの多さ、若者言葉の導入......こうした異物の混入によって、竹宮の文章はオリジナリティを獲得していく。「数日前からの風邪をこじらせ、下痢と嘔吐が上下にマーライオン」といった表現は、一読してすんなり入ってくるものではないだろう。けれど、このような表現が独特のリズムを刻むからこそ、読者は登場人物に対して通常の読書とは異なる種類の関心を持つようになるのだ。
本書は贖罪の物語である。主人公の錦戸枇杷は、大学卒業後、無職のまま自宅に引き籠もっている二十三歳の女性だ。彼女はジャージのままビールを飲むだけの生活を送っていたが、ある日セーラー服を着た強盗に襲われ、親友である清瀬朝野の写真を奪われたことで、それを取り戻すという目的を持つようになる。しかしその直後、自立を促そうとする家族たちの計略によって、枇杷は実家を追い出されてしまう。彼女は途方に暮れるが、不幸中の幸いと言うべきか、その日のうちに件の強盗を捕まえることに成功する。ところが、犯人の正体は、朝野の元恋人・森田昴だった。昴は枇杷に対して謝罪をした後、帰るところがないなら自分の家に来ないかと提案し、結果的に彼らは同居を始めることになる。
枇杷と昴を結んでいるものは、朝野に対する強烈なまでの罪悪感だ。朝野は一年前に伊豆の浜辺で亡くなっており、それが自殺であることを匂わせる描写も数多く挿入されている。枇杷は最後に朝野と会った際、「破壊神」に狙われているという相談を一笑に付してしまった。昴の方は、破局後も気持ちは朝野に向いていたにもかかわらず、あてつけのようにして他の女性と交際していた。つまるところ、枇杷と昴はそれぞれ、自身の行動が朝野を死に追いやったという感覚を拭えずにいるのである。だからこそ、枇杷は職に就くような気力を持てずにいるし、昴はマッサージ師として働きながらも心のどこかで自らの死を望んでしまっている。
しかし、こうした重い設定にもかかわらず、本作は読者に対して陰鬱な印象を与えてはこない。それどころか、枇杷と昴のやり取りは出来のよい掛け合い漫才のようで、言葉の端々にお互いが親密さを感じている様子が窺える。昴が強盗まがいの行為を働いたのは朝野の写真を手に入れるためであり、セーラー服を着ているのも、自分が朝野となることで彼女をこの世界に生かし続けたいと考えているからだ。それは確かに滑稽に映るかもしれないが、裏を返せば、彼が朝野の存在とその死を強く引きずっていることの証明でもある。それが分かるからこそ、枇杷と昴は互いの朝野に対する愛を尊重し合う同志のような距離で接することになる。
彼らは共に時間を過ごした先で、罪の意識を原因とした停滞から抜け出すことに成功する。伊豆で働き始めた枇杷を一年後に昴が迎えに行くという結末は、ご都合主義に見えるかもしれないし、少なくともそこにある愛情が虚構めいたものになることは避けられないだろう。けれど、その上で彼らの再会がたまらなく愛しく思えてしまうのは、作者が「キャラクター」を作ることに成功しているからである。「キャラクター」を産むというのは、ある登場人物の虚構性を強調しながら、同時に現実との距離を測り、読者の感情移入を誘う行為に他ならない。枇杷と昴という二人の「キャラクター」が朝野の喪失を超えて辿り着いた関係性は、枠組みとして名前を与える間でもなく、いつまでも回転を続けていく美しいものとして映るはずだ。
その意味で本書は、まさに優れた「キャラクター小説」なのであり、現実にも幻想にも縛られない自由な領域へ文学を拡張する意志を備えた作品として、我々の前に提示されているのだ。
さかがみ・しゅうせい 作家、文芸評論家
新潮文庫から、創刊百年を期してスタートするニュー・スタイル、新潮文庫nex。ネックスといってもペプシコーラと提携するわけじゃなく、新潮文庫の次世代ラインナップ......ということらしい。
新潮文庫なのに三方断ちのスピン(しおり紐)なし、全点PP貼りと聞いて驚いたんですが、そのぐらいしないと鳴り物入りで新たにカテゴリーを立ち上げる意味がないか。ライトノベル畑の人気作家が数多く参加しているが、ライトノベル専門というわけでもない。文芸書(四六判単行本)を中心とする小説の出版モデルはすでに崩壊しかけているので、若い読者にアピールする文庫オリジナル作品の新しい容れものをつくるという発想は正しい。
第一回配本は、「彩雲国物語」シリーズの雪乃紗衣による新シリーズ第一弾『レアリアI』、『とらドラ』の竹宮ゆゆこのラブストーリー『知らない映画のサントラを聴く』、「心霊探偵八雲」シリーズの神永学『革命のリベリオン―第I部 いつわりの世界―』など、超強力な(なるほどそう来たかと納得のいく)ラインナップ。
その中でも、nexを象徴する一冊としてフィーチャーされているのが、河野裕の青春小説『いなくなれ、群青』。著者は、能力者が集まる街を舞台にした「サクラダリセット」シリーズや、元編集者の探偵と小説家のコンビが神戸のカフェで推理を展開する「つれづれ、北野坂探偵舎」シリーズで知られるライトノベル/ライトミステリーの作家。本書も一種の学園ミステリーに分類できなくもないが、ライトノベル的な設定にもかかわらず、いまどき珍しいほどまっすぐな、胸に迫るラブストーリーだ。
小説の舞台は、階段島と呼ばれる奇妙な島。あるとき、この島で目を覚ました語り手の"僕"こと七草は、先輩の住人からこんなふうに説明される。
「ここは、捨てられた人たちの島です。この島を出るには、七草くんが失くしたものを、みつけなければいけません」
島は孤立していて、島外に出ることはもちろん、外部と連絡をとることもできないが、生活に必要な物資は船で運ばれてくるし、電気ガス水道などのインフラも整っている。ネットにもつながる(ただしメールは出せないし掲示板に投稿もできない)。この極度に人工的な設定の(常識的にはありえない)島で、物語は始まる。
この島で暮らしはじめて三カ月ほどが過ぎた一一月一九日の朝、"僕"は思いがけない人物と出会う。真辺由宇。
七草と由宇は同じ小学校に通い、中学二年生の夏に彼女が転校してしまうまで、毎日のように一緒に過ごした。七草は根っからの悲観主義者で、いつも失敗することばかり考えているが、由宇はその正反対。あんなに輝いていた彼女が、いったいだれに捨てられて、なぜこの島にやってきたのか?
やがて、島の学校に謎の落書きが出現する。ピストルと星のマーク。"僕"が思い出すのは、一九九〇年代初め、ハッブル望遠鏡によって発見された(実在の)超巨星、ピストルスターのこと。拳銃に似たかたちのピストル星雲に位置するため、こう名づけられた。観測範囲内の宇宙では一、二を争う明るさの星だが、地球からはよく見えない。
〈ピストルスターはひっそりと、でも強く、気高く輝いている。僕はピストルスターの輝きを愛している。たとえその光が、僕の暗闇を照らさなかったとしても。〉
奇妙な落書き事件にまつわる謎と、この島の成り立ちに関わる謎。そして、"僕"と真辺由宇との関係。"失くしたもの"とはなんなのか? 本来この島にはいないはずの幼い少年を助けたことから、ふたりの関係は新たな局面を迎える。
すべての謎が解け、階段島の不自然なありようの意味がついに明らかになったとき、"僕"の選択が読者の胸を打つ。ありえない設定でなければ書けない、ありえないほど純粋で一途な恋愛。若い読者にとっては、きっと、忘れられない本になるだろう。
おおもり・のぞみ 書評家

この小説は、あやふやな感情を、あやふやなままできるだけ丁寧に描写したくて書きました。
本書にはとても純粋な少年と、とても純粋な少女が登場します。そしてふたりのあいだにはきっと、名前さえないくらいに純粋な感情があるのだと思います。

でも墓掘り部分は、前作の某刑部尚書を思いだして結構でございます。私も若干頭にちらついてました。彼の呪いかも。あと、サイトのフラッシュでは全然わかりませんが、登場人物の平均年齢が、高......。彼らがそれぞれ、どんな物語を始め、そして終わらせていくのか、よろしければご覧になってみてください。雪広先生の描かれる絵も、どうぞお楽しみに!
ボンヤリしてる間も寄せてくださった読者のあたたかなお手紙が、私の背を静かに押してくれました。待っていてくださった方々へ、心からの感謝を捧げます。本当に、遅くなりました。 私の2作目にして、10年ぶりの新作(......)、手にしてくださった方々が、楽しんでくださることを、祈りつつ。
雪乃紗衣

映画、とタイトルには入っていますが、内容に映画の要素はないのです。制作、しません。鑑賞、しません。映画館を舞台に出会いと別れが描かれ、ません。映画、関係ありません......。
ストーリーはいわゆる「ボーイミーツガール」、東京の片隅で中途半端に生きていた異性二人が出会って、そして――な内容です。
しかしミーツする二人が「ボーイ」と「ガール」の年齢制限を超えているような気もします。とはいえ「大人の男」ミーツ「大人の女」というのも、なにか明らかにとっても違う。
言うなれば、「未熟者ミーツ未熟者」......?
そんな感じの作品です。もしもご興味もって頂けましたら幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

新人として出版の機会を与えて頂けたこと、とても光栄に思っています。と同時に、驚愕によって膝がガクガクと振るえ、未だに真っ直ぐ歩けない日々を送っておりまして、これに更に発刊に向けて「皆様に楽しんで頂けるか」という不安が加わるのかと思うと、今から新しい境地を予感して楽しみで仕方ありません。まったく、人間とは可能性の塊で、私は人間のそういったところを愛して止みません。
実のところ、私自身は私自身の小説というものの面白味に確信があるわけではないのです。しかしながら世の中というのは往々にぼんやりとしたものなのかもしれませんし、ましてや人間ならば自分に確信のある人などきっと一握りでしょう。そういった意味では、何かをするということは全て等しく、確信を得るための未知への「挑戦」と捉えることが出来るのかもしれません。皆確信を持つために日々挑戦しながら生きている。私もこの一冊から小説家としての挑戦を始めていきたい所存ですので、どうぞ宜しくお願い致します。願わくば私の小説が、一つ二つでも皆様が自分の中に確信を持つ手助けとなることを祈っております。
文庫をいちばん面白く――。新潮文庫の100年は、「面白さ」への挑戦の歴史です。その時代、その瞬間によって変化する「小説の面白さ」を新潮文庫は追求してきました。
書き下ろし、オリジナルの文庫が増え、市場動向が激変する中、いま「面白い」小説とは何か。
「キャラクター」が新潮文庫の答えです。この小説に出てくる登場人物は「リアル」ではないかもしれません。あるいは、「社会的」でもないかもしれません。現実ではありえないような個性と、言葉と、振る舞いで、読者を「あっ」と驚かせる物語の主人公たち。それが、いま最も強く、読者を物語に引きこむ「キャラクター」であると新潮文庫は考えます。
小説の、文学の、新たな入口に。100年の歴史を持ち、文芸出版の「新潮文庫」だからこそできる「キャラクター」と「物語」「文学」の融合を。新潮文庫は、次世代ラインナップ「新潮文庫nex」の刊行を開始します。
新潮文庫編集部「新潮文庫nex」編集長 髙橋裕介